犬が牛乳を飲むと、下痢を起こすことがありますが、その理由をご存知でしょうか。
原因として、乳糖という成分の影響とアレルギーによるものなどがありますが、今回は特に多い乳糖が原因で起こる下痢についてご説明します。
初乳の大切さ
子育てをする中で授乳は、医学的にも心理学的にも非常に重要な役割を果しています。生まれたばかりの子犬や子猫は、病気に対して無防備の状態で、乳腺で作られた初乳(生後2~3日以内の母乳)を飲むことによって多くの免疫を獲得し、病原体などから身を守ります。
人間の乳幼児では生後10ヶ月を過ぎると母子免疫の効果はほぼ消失するといわれています。犬や猫は、母乳(初乳)を飲むことによって免疫が2~3ヶ月(8~14週)持続するといわれています。
初乳の力
初乳に含まれる身を守る武器の1つに「ラクトフェリン」という成分があります。
「ラクトフェリン」=「ラクト(=ミルク)」+「フェリン(=鉄を運ぶもの)」
つまり、ラクトフェリンは鉄分と結合しやすい性質があり、細菌やウイルスが生きていくために必要な鉄分を「ラクトフェリン」が奪うため細菌やウイルスは生きていけなくなるのです。
腸内の悪玉菌は発育に鉄分が必要ですが、乳酸菌などの善玉菌は鉄分をあまり要求しません。そのため「ラクトフェリン」は細菌やウイルスに対して効果的ということだけではなく、腸内細菌のバランスを崩すことがなく整腸作用も期待できるのです。
すべての哺乳類において生後数日間の母乳を摂取することは、親子の絆を深めるために重要であるだけではなく、肉体的に感染から身を守るという目的を達成するために必要なことなのです。
乳糖不耐症による下痢
小腸内で、ラクターゼと呼ばれる乳糖分解酵素が十分に作られないために、牛乳や乳製品に多く含まれる乳糖を分解できないことがあります。それにより下痢を起こすことを乳糖不耐症といいます。乳糖分解酵素は主に哺乳動物だけがもつ、乳腺から分泌される乳汁中に含まれる成分です。
一般的に動物は、母乳に含まれる乳糖を分解できるだけの乳糖分解酵素を分泌します。
母乳に含まれる乳糖の割合は動物種によって様々で、牛乳に含まれる乳糖は約5.0%(カッテージチーズは2.5~3%)、ヤギのミルクは4.1%、そして犬(授乳中の雌犬)のミルクは3.1%、授乳中の猫のミルクは4.2%、人間のミルクは9%です。
乳児期までは、小腸の粘膜で乳糖分解酵素が作られるため母乳を飲んでも下痢を起こすことはあまりありません。
下痢をする原因
離乳期を過ぎると乳糖分解酵素の分泌がだんだんと減少していきます。この現象は人に限らず犬や猫も含め、哺乳動物全般に共通する現象です。つまり、犬も猫も成長すると共に乳糖分解酵素が減少するのです。そのため、子犬や子猫は、自分が持っている乳糖分解酵素以上の乳糖を接取すると、乳糖のほとんどが分解されないため、下痢を起こしてしまいます。
乳糖が分解される場所
基本的に、乳糖は胃では吸収されず小腸に移動します。通常であれば小腸の粘膜上皮には乳糖分解酵素が存在し、この酵素によって乳糖はブドウ糖とガラクトースに分解され初めて腸管から体内に吸収されます。
牛乳に含まれる乳糖が分解・吸収されないと、乳糖は腸管を通過し大腸に移動します。大腸には腸内細菌が繁殖しており、乳糖はこれらの菌によって発酵します。そして、腸管内から腸管壁に吸収されるべき水分が乳糖と一緒に残り、腸管の運動が活発になることによって下痢を引き起こします。
乳糖分解酵素の量には個体差があり、牛乳をたくさん飲んでも下痢を起こさない子もいれば、少量の牛乳を舐めただけでも下痢になってしまう子もいます。
加熱した牛乳
牛乳を加熱して「ホットミルク」にすれば乳糖が分解されてペットも下痢をする確率が下がると考える方もいますが、残念ながら沸騰させた牛乳でもスキムミルクでも乳糖は分解されません。また、低温殺菌牛乳でもバターミルクでも乳糖は分解されません。
少量の牛乳で下痢を起こしてしまう子には、次のような牛乳の代わりになるものをあげましょう。
牛乳の代わりになる食品
牛乳を原料とする乳製品には、製法によってほとんど乳糖を含まないものがあります。
それらをご紹介する前に、少しだけ牛乳のご説明をします。牛乳に含まれるたんぱく質のほとんどがカゼイン、残りはホエーと呼ばれるものです。ガゼインは酸や凝乳酵素で固まりますが、ホエーは加熱すると固まります。つまりホットミルクで出来る膜はホエーというわけです。
カッテージチーズや低温滅菌したヨーグルト
これらの食品には、乳中のたんぱく質、脂肪、カルシウム、ビタミンAのほとんどが残っていて、製造の過程においてホエーと一緒に乳糖が除去されているので乳糖不耐症のペットに与えても問題ないことが多いです。特にカッテージチーズは低脂肪のため、安心して与えられるでしょう。
ヤギのミルク
ヤギのミルクは牛乳に比べ消化性が高く、牛乳より乳糖が少ないです。ヤギミルクは極めて人間の母乳に近く、人間の牛乳に対するアレルギー反応の原因となるカゼインが微量であることから、人の医療においても、牛乳アレルギーの患者にも与えられるといわれています。
また、ヨーグルトや乳酸菌飲料などの発酵乳製品に含まれる乳糖は、製造の過程で乳酸菌のもつ乳糖分解酵素によって乳糖の一部が乳酸に分解されるので、乳糖不耐症の犬や猫でも下痢に関してはあまり心配する必要はないかもしれません。
ペットのためのカッテージチーズの作り方
- 耐熱ボールに牛乳を入れて沸騰しないように温めます(50~60℃がベスト)。
- 温まった牛乳を火からおろし、3~5分待ち冷めたら(40℃)レモン汁を加えます。
- 固形物と水分に分離するので、ザルにキッチンペーパーや布巾を敷き、液をあけてこします。(自然に水分が落ちるのを待つ。)
- ※レモンの代わりに酸として酢やアップルサイダーヴィネガー(リンゴ酢)を入れてもよいですが、その場合は匂いが気になるのでペーパタオルに包んだままのチーズを水洗いします。
- キッチンペーパーに残ったものを巾着状に閉じて持ち上げ、水分を滴り落とし、液を軽くしぼります(あまり強くしぼるとパサパサになります)。
- ふきんの中に残った白いものがカッテージチーズです。
まとめ
牛乳には多くの栄養が含まれていますが、犬も猫も元々は肉食動物のため、必要とする栄養成分とは若干異なります。
しかし、牛乳にはエネルギー、たんぱく質、脂肪、炭水化物、カルシウム、リン、ビタミンA、ビタミンB複合体、微量元素など、生きていくために必要な栄養素が豊富で、子犬や子猫の成長には優れた食事となるため、できれば与えてあげたいと思う飼い主さんもいるでしょう。
そんな飼い主さんは、今回ご紹介した牛乳の代わりになるような食品などを参考にして愛犬や愛猫の健康管理に役立ててみてください。
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