ペットと引っ越し

最近はペットと一緒に暮らせる賃貸マンションなども増え、以前よりもペットが引越しを経験する機会が増えてきました。引越しはそれだけでもとても労力のいる一大イベントですが、ペットと一緒に引越しをする場合には、更にいくつか気をつけなければいけない点があります。

今回は、ペットと引越しをする時の注意点についてお話をします。


その1.引越しが決まってから、引越し当日までの注意点

【かかりつけの先生にご挨拶をしておきましょう】

今まで通っていた動物病院の獣医師に引越しの報告をするのは、ただ単に礼儀上の問題だけではありません。ペットの健康状態などの情報を次の獣医師へ引き継ぐために必要なことです。現在、特に動物病院に通っていなくても、引っ越し先で次に通う動物病院の獣医師にペットの今までの情報を最初に伝えることができれば、その後の健康管理をスムーズに行うことができます。

もしも、引越し先に今通っている動物病院と知り合いの獣医師がいれば、紹介してもらうのが一番ですが、そうでなければ今までの既往歴や持病、現在使っている薬の名前などを詳しく聞いておきましょう。

【引越し当日はペットをどうするか決めておきましょう】

引越し当日は知らない人がたくさん出入りすることもありますし、大きな荷物が動いたり、大きな音もするため、ペットにはとても大きなストレスになります。ですが、飼い主さん自身、荷造りに追われてペットのことばかりに気を使ってあげる余裕がなく動き回ることもあるでしょう。ストレスに耐えられなくなったペットが、開け放してある玄関や窓、門から逃げ出してしまいそのまま行方不明になってしまった、という悲しい事故も残念ながら起こってしまうこともあります。

引越し当日は、できればペットを知り合いやペットホテルに預けておくなどして、お家にいないほうが安心です。引越し先が遠い場所でなければ、引越し先の荷物も全て運び込んで、一段落ついて落ち着いてからペットを迎えに行きましょう。

どうしても預けられない場合には、出発する時間までケージに入れて一番人の出入りが少ない場所に置いておきましょう。夏場などの熱中症の危険がない気候であれば、できればドアを閉め切って大きな音や気配がなるべくしない静かな環境にしておけると比較的安心です。

【ペットの移動手段を考えておきましょう】

ペットを新しい家まで連れて行く手段は「自分で連れて行く」「人に頼む」の大きく2通りがあるかと思います。

自分で連れて行く場合、普段からドライブ旅行などに一緒に行く子なら自家用車で行くのが一番ストレスのない方法でしょう。もしも公共の交通施設を使う場合には、必ずキャリーバッグに入れて各施設のルールを守って移動しましょう。

自分では運べない場合、引越し会社でもペットを運んでくれるところもありますが、会社によって運び方や料金が異なります。引越しの見積もりの時点で必ず確認をしておきましょう。また、このようなときのためにペットの輸送を専門にしている会社もあります。

【移動時にはかならずケージに入れて】

自分で運ぶ場合も、人に頼む場合も、ペットを連れて行くときには必ずケージに入れるようにしましょう。電車や飛行機など公共の施設を使う場合には、ほかの利用者のことを考えてケージに入れることが義務化されていますが、それ以外の場合でも、ケージなどのペットが飛び出すことができない入れ物に入れたほうが安全です。「いままで、どこに行くにもうちの子はリードをつけて抱っこしていたから大丈夫」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、引越しはペットにとって今までにないほどショッキングな出来事です。いつになく神経質になったり、必要以上に興奮して言うことを聞かなくなってしまうこともあります。心配でずっと抱っこしてあげたい気持ちもあると思いますが、いろいろなことが一度に起きてパニックになっているペットにとっては、暗くて狭いケージの中にいるほうが落ち着ける場合もあることを理解してあげましょう。

また、移動するときにはケージと首輪に必ず名前と連絡先のついたタグを忘れずにつけておきましょう。

【短頭種は移動に注意】

特に夏の暑い時期にペットを移動する場合、周囲の温度には十分に気をつけなければいけません。特にフレンチブルドッグやパグ、ペルシャやエキゾチックショートヘアーなどの短頭種は鼻の穴が狭く、ほかの品種よりもうまく呼吸による熱交換をすることができないため、暑い時期に興奮してしまうと熱中症になりやすいといわれています。このような理由から、温度差の激しい飛行機の中では体調を壊すことも多いため、多くの航空会社は短頭種の搭乗を断ることもあるほどです。

短頭種だけでなく移動手段は何を使ってどのように行うのか、ペットの体調を考慮して前もってシミュレーションし、なるべくペットに負担がかからない方法を選んであげましょう。


その2.引越しをしてからの注意点

【犬は登録変更を行いましょう】

犬の場合、引越しをしたら狂犬病の登録情報を変更しなければいけません。狂犬病を初めて打ったときにもらう鑑札を持って地元の保健所もしくは環境衛生課などに登録変更の手続きを行ってください。今まで登録を行っていたところには新しい登録場所から連絡が行きます。もしこれらの届出を怠った場合には、狂犬病予防法により20万円以下の罰金に処せられる場合があるため、必ず忘れないようにしましょう。

【初めての家での過ごし方】

新しい家をすみずみまでよく見せてあげたい気持ちも分かりますが、ペットにとって新しい家は、自分のにおいのついていない不安だらけな未知の場所です。無理矢理連れ回しても、ただただストレスになってしまいます。新しい場所の探索はペット自身の意志に任せて無理強いは決してしないようにしましょう。

引っ越してきたら、まずケージを一番落ち着ける場所で飼い主さんの存在を感じられる場所(リビングの隅など)において、しばらく様子を見てみましょう。ペットが落ち着いているようなら、ケージの扉を開けて自ら外に出てくるのを待ちます。部屋のドアや窓は閉めておき、まずは一部屋だけに慣れさせるようにしましょう。

今まで使っていたペットのにおいがついたトイレや食器、ベッドなどを室内に置くことで安心させる効果があります。また、神経質な子には気持ちを落ち着かせるフェロモン剤(動物病院で処方してもらえます)などを使ってもよいでしょう。

ひとつの部屋に慣れたら、徐々にほかの部屋も見せていき「ここが新しいおうちなんだよ、安心できる場所なんだよ」ということを教えていきましょう。

【脱走や迷子にはくれぐれも気をつけましょう】

引っ越してしばらくは、ペットにとっては「新しい家」というよりも「知らない所でのお泊り」という感覚です。前の家に強い執着心のあるペットは、自分の家に帰ろうと脱走して行方不明になってしまうこともあります。戸締りにはくれぐれも気をつけて、玄関や窓は決して開けっ放しにしないようにしましょう。お散歩は家のまわりを一周するところから始めて、徐々に範囲を広げるようにしましょう。

【ペットが不安を感じたら】

ペットによっては新しい環境に慣れるまでに時間のかかる子もいます。家が新しくなっても、ごはんや散歩の時間は変えずに生活パターンをなるべく今までどおりにして、静かに見守ってあげましょう。初日は心細くなって1日中鳴いてしまったり、不安な行動を取る子もいます。できれば引越しの次の日は1日家で一緒に過ごしてあげられるように日程を組んで引越しの日取りを決めてあげるとよいでしょう。

【新しい土地でペット友だちを作りましょう】

お散歩をする犬であれば、外で出会ったほかの犬の飼い主さんに積極的に話しかけてみましょう。引っ越してきたばかりということを伝えれば、お店や病院の情報、お散歩に適した場所や危険な場所などをいろいろと教えてくれるかもしれません。


その3.海外に引越しをする場合

もしも、ペットを連れて海外に引越しをしなければいけなくなったときには、まずは引っ越し先の大使館にペットの受け入れ条件について確認しましょう。輸入許可申請書に必要なワクチンや病気にかかっていないことの証明書、それに関わる必要な検査は国によって異なります。また、国によってはマイクロチップを体に埋め込まなくてはいけない場合もあり、必要な検査の種類によっては時間がかかるものもあるため、なるべく早めに確認しておきましょう。

日本から出国する際には動物検疫所で検査が行われます。具体的には犬の場合は狂犬病とレプトスピラ症を持っていないかどうか、猫の場合は狂犬病を持っていないかどうかが調べられます。狂犬病予防接種は接種後30日以上1年未満ということが条件となるため、近くの動物検疫所でなるべく早く確認しておきましょう。

出国の検査は12時間以内の係留検査を行いますが、健康状態に異常がなければ通常はすぐに終わります。これが終了すると英文の輸出検疫証明書が発行されます。

ペットを飛行機に乗せるときには、

  • 飼い主さんと一緒に乗客室に乗れる
  • 飼い主さんと一緒の飛行機だが、ペットは貨物室に乗る
  • ペットと人は別々の飛行機で行く

の大きく分けて3通りがあります。それぞれにルールや条件があるので、こちらもなるべく早く航空会社に問い合わせてみるとよいでしょう。どの場合でも、長時間ケージにペットを入れておかなければならないため、あらかじめ健康に留意しケージに入ることに慣れさせておくとよいでしょう。


まとめ

ペットは大きな生活の変化というものを望んでいません。毎日同じように過ごしたいと思っています。そのため、ペットにとって今までの環境ががらっと変わってしまう引越しはとても大きな試練です。このように、引っ越しは大きなストレスのかかることですが、大好きな飼い主さんと一緒にいられるということを思って、頑張って耐えてくれているのだと思って接してあげてください。

なるべくペットにとって引越しが負担にならないように十分考慮して行動することで、今まで以上に相手のことを思いやり、飼い主さんとペットの絆がますます深まるといいですね。

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