神経の病気の検査について

例えば、手がしびれて物がうまくつかめないとき、あなたはどうやってそのことを医師に伝えますか?普通は、「手のひらの感覚がなくなって、力を入れることができません」などと話すと思います。しかし、同じことがペットに起こった場合、ペットはそれを動物病院の獣医師に自分から伝えることができません。外から見ても傷などはないのにうまく動けない、痛みがある、といった神経の病気になったときは、特殊な検査を行う必要があります。今回は、神経の病気になってしまったときの検査について解説します。


神経の伝達について

神経は頭のなかの脳から太い束となり、背骨のなかの脊髄を通ってしっぽまで伸びています。その途中、背骨と背骨の間からたくさんの神経が出て、細く枝分かれしながら手足の先まで広がり、脳からの指令を伝えています。逆に、手足の先で感じた感覚はその反対方向を辿って、細い神経から徐々に太い束となって脳まで到達しています。

つまり、もしこの神経が途中で切れてしまったり、圧迫を受けた場合、その感覚は脳まで到達することができず、脳からの「動け」といった指令も届かずに、麻痺している状態になってしまいます。


神経がダメージを受ける代表的な病気

神経がダメージを受ける病気の代表的なものとして、椎間板ヘルニアがあります。椎間板ヘルニアとは、背骨と背骨の間にクッションの役割としてある椎間板という軟骨が、何らかの力によってあるべき場所から押し出されて、背骨の中を通っている神経を圧迫する病気です。圧迫の度合いや持続時間によって痛みやしびれ、無感覚などさまざまな症状が起こります。

● 神経の検査 ① 痛みの検査  

もし、神経が大きなダメージを受けた場合、その神経が分布していた場所はすべての感覚を失ってしまいます。触覚や温度などの感覚のうち、最後まで残るのが痛覚(痛みを感じる感覚)ですが、その有無を調べる検査を深部痛覚検査といいます。具体的には、鉗子のような医療器具で皮膚をはさみ、痛がるかどうかで判断します。例えば、指の間の薄い膜の部分をぎゅっとつまんだときに、もし痛みがあれば痛そうな顔をして、その足をさっとひっこめますが、深部痛覚が消失している場合は、何も感じることもなくじっとしています。

深部痛覚のなくなった神経は相当なダメージを受けている証拠なので、早急に処置を行わないと元に戻すことは大変難しくなります。


● 神経の検査その② 反射神経の検査 

反射とは、頭のなかで考えなくても動いてしまう体の反応のことをいいます。

皆さんは『膝外腱反射』の検査を知っていますか?膝部分をやわらかいハンマーでポンと叩くと、反射的に膝が伸びるかどうかをチェックする検査のことです。これは自分で動かそうとして動いたわけではなく、叩かれた刺激が神経から脊髄に伝わり、そこから直接折り返して筋肉を動かした脊髄反射(膝蓋骨反射)の結果です。

このような反射があれば、その神経は機能していることになりますが、もし反射なければ、その神経の通り道のどこかが傷ついている可能性があります。また、反射を起こしている脊髄よりもさらに脳に近い部分に問題がある場合には、逆にこの反応が異常に敏感になることもあります。


神経の検査その③ 姿勢反応の確認 

健康な動物は皆、目で見なくても筋肉の緊張感や関節の位置などから自分の足が今どこにあるのか、どのようにして立っているのかを感じることができます。そして不自然な姿勢になったときに、体が倒れないよう、無意識に足の位置を変えてバランスをとろうとします。

その反応のことを姿勢反応といい、例えば手首を曲げた状態(ナックリング)で立たせようとしても、通常はすぐに肉球を地面につけて安定して立とうとします。しかし、手の感覚が鈍くなっていたら自分がどのような姿勢で立っているのかがわからないため、手首を曲げたままで立ち続けます。これは難しい言葉でいうと、固有位置感覚の消失といわれます。固有位置感覚の消失は、麻痺や痛みがなくても見られることがあり、軽度の椎間板ヘルニアなどを起こしている可能性があります。


● 神経の検査その④歩き方の確認

もし、体の大部分に麻痺があれば当然歩くことはできません。しかし、ペットは4本足で歩くため、うしろ足の片側だけが軽くしびれているような場合ならば、ゆっくりと歩くことができます。ただし、感覚のない足は足の甲を地面に擦るようなひきずった歩き方をしますし、感覚はあるけれども力が入らなければ、腰が左右にふらつくようになるため、歩き方で神経の病気があることがわかります。また、うさぎ跳びのような両足をそろえた歩き方や、前足とうしろ足で歩幅が異なるような特殊な歩き方をすれば、ある程度神経のどこが悪いのかを推測することもできます。


おわりに

神経系に症状が現れるペットの病気は様々あります。

どのような症状がどの部分にどの程度出ているのかを見極めて診断につなげていきますが、

どの病気でも初期のうちに発見するに越したことはありません。

ペットが少しでもいつもと違う動きをしていたり、行動に違和感があれば、かかりつけ医に相談してみましょう。


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