犬のアレルギー性皮膚炎の1つに、食べ物がアレルギーの原因(アレルゲン)となる「食物アレルギー」があります。最近、人間でもペットでも多く見られる食物アレルギーを、人間の乳幼児の卵アレルギーと比較しながらご説明します。
食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関係
食物アレルギーとは「食物が原因となってアレルギー症状を起こす病気」です。人間では乳児の約10人に1人が食物アレルギーを持つと推測されており、また食物アレルギーを持つ乳児のほとんどはアトピー性皮膚炎を合併していると言われています。動物の場合でも、最近の報告で食物アレルギーの犬と猫の20~30%は、アトピー性皮膚炎やノミアレルギー性皮膚炎を併発していると報告されました。
食物アレルギーのアレルゲンは?
乳幼児の食物アレルギーの主なアレルゲンは、【卵】【牛乳】【大豆】の3つですが、最近の厚生省の報告によると、【卵】【牛乳】【小麦】【そば】【えび】【ピーナッツ】【大豆】【チ-ズ】の順に増えていることが報告されています。
一方、犬における最も一般的なアレルゲンは、【牛肉】【乳製品】【鶏肉】【小麦】【鶏卵】【とうもろこし】【醤油】です。ペットフードは昔から牛肉、鶏肉、とうもろこし、および小麦で作られてきましたが、最も一般的なアレルゲンは実はドッグフードの一般的な成分だったのです。
食物アレルギーのメカニズム
人間の場合、食物アレルギーの原因となる物質は、母乳以外のものを初めて体内に取り入れる時期、つまり離乳時に食べたものの中に含まれています。有名な乳幼児の卵アレルギーについても、離乳食の早い時期に与えることが問題であると指摘されており、出生後8ヶ月になるまでは、卵と卵を含む一切の食品を完全に禁止すると、食物アレルギーの発症は1/2から1/3に減少するというデータもあります。
乳幼児の食物アレルギーと動物の食物アレルギーは厳密には異なりますが、乳幼期に食べたものがアレルギーの原因となる点は同じです。生まれてからずっと○○を食べているから○○に対するアレルギーはないと思いこんではいけません。乳幼期に食べたからこそ、それがアレルゲンとなる可能性は高いのです。
それではなぜ、幼犬・幼猫期に摂取した食物に対してアレルギー反応が起こるのでしょうか?それは消化機能がまだ未熟なこの時期では、消化の不十分な物も吸収してしまったり、腸粘膜を守っている免疫が少なく、腸を通過してアレルギーを起こす可能性のある物質が体内に侵入しやすいからです。
例えば鶏肉アレルギーの動物が鶏肉を食べると、小腸から鶏のタンパク質が吸収され、血管を通って全身に運ばれます。もし体がそのタンパク質を異物と認識すれば、それを撃墜しようと攻撃を開始します。それがかゆみや赤みなどの皮膚症状や下痢などの消化器症状となって現れるのです。
食物アレルギーの一般的なサイン・症状とは?
まず第一に、皮膚のかゆみが挙げられます。また外耳炎が繰り返されるのも特徴です。
その他、抜け毛が多かったり皮膚を過剰に引っかくなどの症状が見られます。
食物アレルギーのサインは他のアレルギー疾患と似ており、症状のみで断定はできませんが、主な症状には次のようなものがあります。
①外耳炎を繰り返す
②1歳未満から中等度~重度の皮膚炎がある。
③1年中症状が続く(非季節性)もしくは冬に症状が始まる。
(かゆみがとても強いが、抗ヒスタミン剤やステロイド剤に反応しない)
食物アレルギーの診断とは?
食物アレルギーの検査には様々な検査がありますが、その中で最も信憑性の高い唯一の診断方法は「食物除去・食誘発試験」です。
その方法は、まず疑わしい食物を与えないようにするため低アレルギー食を4~8週間与えて様子を見ます(食物除去試験)。低アレルギー食とは、獣医師のみが扱える処方食で、人でいう低アレルゲン乳、低アレルゲン米に相当します。理論上アレルギー反応が起こらないよう配慮されているフードです。食物除去試験の期間中は特別食と水だけを与えます。途中で別のものを食べてしまったりすると始めからやり直しになります。
食物アレルギーが関与していた場合や、食物除去試験で症状の改善が認められるの場合、消化器症状であれば2~3日、外耳炎などの皮膚症状であれば4週間で症状がおさまります。4週間続けても何も症状に変化がなければ食物アレルギーは否定しても問題ありません。低アレルギー食で症状の改善が見られたとしたら、日頃の食事の中にアレルゲンがあったと考えられます。
その場合は、疑わしいとされる食物(これまで与えていたビーフジャーキーやフード)を再び少量ずつ与えて症状が再発するか観察します(食物誘発試験)。もし症状が悪化したら食物アレルギーの可能性が高くなり、もう一度低アレルギー食を与えて症状が改善されればさらに信憑性が高くなります。
食物アレルギーの治療とは?
小さい頃からずっと食べているタンパク源がベースのフードではなく、逆にこれまでに食べたことがないタンパク源(ナマズやカンガルーなど)を原材料としたフードが治療の中心となります。
しかし市販されているペットフードのタンパク源はチキンや牛肉が多く、全く食べたことがないタンパク源がベースとなるものはほとんどないため、獣医師専用の低アレルギー食(カンガルーやナマズといった新奇タンパクを使用)を利用した方が合理的です。
鹿や馬をベースとしたフードもあるため、「食物アレルギー」、「犬」、「低アレルゲン」などのキーワードでネット検索してみるとよいかもしれません。
大切なことは「これまでに食べたことのない“目新しい”タンパクベースのフードを与える」というセオリーを忘れないことです。
自宅でできる予防策とは?
以上のことを踏まえると、幼犬・幼猫期にフードを与える際に気をつけなければならないことが分かってきます。少なくとも3年間は単一のタンパクしか与えないことが重要です。
A社のフードの食べが悪いからB社へ変更する、ということは問題ありませんが、タンパクは1種類以上与えない(ジャーキーなどのおやつのタンパク源も統一する)ということを念頭においておくと、将来食物アレルギーになった場合にスムーズに治療に入ることが出来ます。
おわりに
今回は食物アレルギーの症状と診断、治療についてお話しました。人間の赤ちゃん同様、ペットの食物アレルギーも増加傾向にあります。しかし最近では様々なタンパク質を使った新しいフードが次々と開発されています。アレルギーが出てしまっても悲観せず、アレルゲンを回避しながら上手に付き合っていきましょう。
0コメント