短頭種について

短頭種とは「鼻ペチャの顔立ちの犬種」のことを言います。

専門的な言葉を使うと「スカル(頭蓋骨の長さ)に比べて、マズル(鼻の長さ)が短い犬種」のこと。頭の形によって『短頭種(スカル>マズル)』『中頭種(スカル=マズル)』『長頭種(スカル<マズル)』に分けられています。

今回は「短頭種の犬には、どんな種類がいるのか」そして「どのような特徴があり、どのようなことに気をつけて飼育すればよいのか」について、詳しく説明していきます。


短頭種が生まれた理由

もともと犬はみな、オオカミのような長い鼻の顔つきをしていました。しかし、人がさまざまな目的のために品種改良をしていく際にそれぞれ都合の良い形態を選んでいった中で、鼻の短い犬も生まれたと考えられています。

たとえばブルドッグは、もともと牛と戦うために作られました。牛の足に噛み付きやすいように下あごを発達させ、さらに噛みつき続けて口を閉じたままでも呼吸がしやすいように鼻の穴を短くして上に向けるようにした結果、あの独特の顔が作られたのです。

また、ペキニーズはもともと中国宮廷の愛玩犬ですが、伝説の動物「獅子」に似せてあのような鼻が短くて目が大きく、毛がたてがみのようにふさふさとするように改良されたと言われています。


短頭種の犬には、どんな種類がいるのか

ヨーロッパ系の短頭種の犬には「フレンチブルドッグ」「ボストンテリア」「ボクサー」、アジア系の短頭種には「シーズー」「チベタンスパニエル」「チャウチャウ」「パグ」「狆(ちん)」がいます。

また「キングチャールズスパニエル」「ブリュッセルグリフォン」のように、ヨーロッパの犬にアジアの短頭種を掛け合わせた犬種もいます。


短頭種の特徴とは

短頭種の犬の多くは鼻がつぶれているせいで、横から見たときに鼻と目がほぼ同じ面の上にあるようにみえます。鼻が顔にめり込んでいるせいで、鼻と目の間の皮膚にシワができている子がほとんどです。

また鼻を短くした結果、鼻の穴が通常の犬より狭くなっているため、鼻で呼吸がしづらかったり、嗅覚が劣っていたりすると言われています。

さらに鼻の部分が短くなったせいで、上あごの骨が下あごに比べて小さくなり、上下の歯が噛みあわなくなっていたり、歯並びが悪くなってしまうこともあります。


かかりやすい病気と注意点

これらの短頭種ならではの特徴から、かかりやすい病気がいくつかあります。


① 角膜炎

鼻というガードがないために、目をあちこちにぶつけたり、目に草の先端などが刺さって目の表面(角膜)を傷つけたりすることがよくあります。

また、鼻の根元から目に向かって生えている毛や目尻の皮膚のシワが常に角膜を刺激して、角膜炎の原因となっていることもあります。

これらは、特に目の大きいシーズーやパグなどによく見られます。


② 皮膚炎

通常、涙は鼻涙管という細い管を通って目から鼻に抜けていきますが、鼻がつぶれているとその管が狭くなっていることがあります。

目から溢れた涙は目尻から鼻のシワの間にたまりやすく、シワの間は常に湿って汚れていることが多いため細菌感染を起こしやすく、こまめにぬぐって清潔にしていないと皮膚炎を起こしてしまうことがよくあります。


③ 呼吸系の病気

鼻の穴が狭いために鼻で呼吸しづらく、他の犬種よりも常に呼吸数が多いのも注意点のひとつです。


④ 熱中症

犬は暑いときに舌をハアハアさせて呼吸することで体温を下げますが、通常でも呼吸が大変な短頭種は、ほかの種類の犬よりも体温を下げにくく、熱中症になりやすいと言えます。

ですから短頭種の犬は、呼吸数が高くなる原因である暑さや興奮には要注意です。この特徴から最近では夏の間、短頭種の犬のお預かりを断っている航空会社があるほどです。


⑤ その他の病気

短頭種の犬は、寝ているときによく“いびき”をかきます。それは喉の奥にある軟口蓋(いわゆるノドチンコの部分)が通常よりも大きく、寝ているときに緩んで呼吸をするたびに振動し、音が出るためです。軟口蓋は常に激しく呼吸をすることによって少しずつ伸びる、と言われています。ひどくなると気管の入り口を塞いでしまうことがあり、あまりに呼吸の邪魔になると手術で切除しなければならなくなることすらあります。

また、短頭種の犬のように上あごよりも下あごのほうが出ている噛み合わせのことを「アンダーショット」といいます。上の歯と下の歯がきちんと噛みあわないため、口を閉じていてもすき間から舌が出ていることがよくあります。これ自体はとくに病気とは直結しませんが、歯並びが悪いと歯垢がつきやすく、歯石から歯周病へと発展しやすくなります。短頭種は子犬の頃から歯磨きを習慣にして、常に口の中を清潔にしておくことが必要です。


まとめ

かつて日本では、「狆(ちん)」という短頭種が一大ブームとなりました。神社の狛犬もその姿を似せて作られたとさえ言われています。現在ではシーズーが多くの人に飼われるようになり、フレンチブルドッグやボストンテリアも人気です。鼻ペチャのわんちゃんは愛嬌があり、表情豊かで人のことが大好きな子が多いため、いつの時代でも私たちの気持ちを捉えて離さないのでしょう。

しかし、本来の犬からかけ離れた姿をしている品種ほど、その改良には多少の無理があったということを知っておく必要があります。それぞれの品種の特徴をよく勉強して、その子に合った飼い方を心がけることが、飼い主さんとして大切なことではないでしょうか。