猫の肥大型心筋症 ~大動脈血栓症候群との関係~

人の心臓病は動脈硬化、犬は僧帽弁閉鎖不全、猫は肥大型心筋症がもっとも多くみられます。今回は、猫が突然下半身麻痺になることもある恐ろしい病気、肥大型心筋症についてお話します。


肥大型心筋症ってどんな病気?

心臓は365日休むことなく働いています。そして、心臓の筋肉が規則正しく収縮を繰り返すことによって体全身に血液を送りこみ、細胞に酸素や栄養を供給しています。

しかし、その心臓の筋肉、いわゆる心筋が次第に厚くなって心臓の収縮機能が低下すると、血液中の酸素も栄養も正常に送り届けることができなくなってしまいます。酸素や栄養は各器官が正常に働くために必要なものですから、その障害は全身症状として現れます。

また心臓の収縮機能が低下すると、同時に心臓の循環不全が起こり、心臓内に血栓(血液の塊)が作られてしまいます。その血栓が心臓から流れ出て動脈に詰まるとそれ以降の血液が流れなくなり、突然死することもあります。

このように心筋が厚くなることによって、さまざまな症状を引き起こすのが「肥大型心筋症」なのです。


ある日、突然やってくる!

この病気はほかの病気のように徐々にやってくるのではなく、いきなり症状として現れるのが特徴です。例えば昨日まで元気だった猫が、突然元気や食欲がなくなりうずくまって休むことが多くなります。

また、心臓の酸素循環がうまくできなくなるため肺水腫を起こし、しっかりとした呼吸ができずゼーゼーと苦しそうにしたり、時には酸欠状態になるため失神することもあります。

 

血栓ができると、その詰まった場所以降の血液が流れなくなってしまい、激しい痛みを伴うため猫は狂ったように鳴いたり暴れたりすることもあります。特に血栓が詰まりやすい場所は、大動脈から両後ろ足に分かれる場所(腹大動脈分岐点)で、そこに血栓が作られると後ろ足の肉球は白くなり、猫はふらついたり足を引きずるようになります。その状態が続くとやがては後ろ足が冷たくなり、麻痺して動かせなくなってしまいます。

もちろんその腹大動脈分岐点以外にも、血液の流れているあらゆる場所で血栓が作られる可能性があります。そしてその場所で重大な障害を起こしてしまうのです。


どうして起こるの?

残念なことに、この病気が起こる原因は今のところわかっていません。

心臓の病気、特に心筋症に対しては、人医療でさえも発生する原因がわかってないことが多いようです。猫の肥大型心筋症の発症が報告されている年齢は6ヶ月から16才(平均5~7才)と幅広く、言い換えればほぼすべての年齢の猫に発症する可能性があります。

また、メスと比べてオスの方が発生しやすいといわれており、中でもメインクーンでは遺伝による発症が報告されているようです。ほかの猫種でも遺伝性の可能性があると考えられていますが、現在のところそこまでの研究は進んでいません。


この病気だとわかる検査は…

この病気の診断は、次のような検査によって行われます。


レントゲン検査

肥大型心筋症の猫の心臓は、形がその機能低下によって変わり、ハート型の心臓(バレンタインハート)となります。

エコー検査

超音波で心臓の筋肉が正常よりも厚いことを確認したり、心臓の中にある血栓を見つけることができる場合もあります。

血液検査

筋肉にあるクレアチニンフォスフォキナーゼ(CK)という酵素が異常値を示すことでわかります。

ほかにも、血栓により血液が流れていないために後ろ足の脈拍を確認できなかったり、後ろ足を深爪しても血が出ないことなどが診断の目安となります。

この病気は心臓病で、しかも来院時には非常に状態が悪くなっているため検査が困難な場合も多いのですが、診断が遅れるとそれだけ症状も悪化していくので、できるだけ迅速な診断が望まれます。


この病気、治せるの?

肥大型心筋症は原因不明の病気のため、まだ完全な治療法がありません。

早期に見つけることができれば、血栓を溶かす薬の内服や外科的に血栓を取り除くことで命を救うことも可能です。また、対症療法的に強心剤や利尿剤、血管拡張剤などを投与して心臓の機能低下をやわらげることで呼吸を楽にし、体調の改善をはかることもあります。

しかし、もともとの心臓が弱っているため、外科的手術の際は麻酔の負担が大きく手術中に死亡してしまうこともあります。さらに治療をきちんと行ない元気を取り戻して状態が回復しても、再発率がかなり高いため、その後急に症状が悪化したり突然亡くなってしまうこともあります。

残念ながらこの病気は目でわかるような症状が出ているときはすでに手遅れのことも多く、ほとんどの場合、長生きすることは難しい病気です。


この病気を防ぐには、どうすればいいの?

前述のように、肥大型心筋症はすべての猫に起こる可能性のある病気です。そして前触れもなく症状が起こることも多いため、この病気自体の予防は難しいと思われます。

しかし、飼い主さんの知識としてこのような怖い病気があるということを頭の隅に入れておくことは重要です。飼い主さんが早期に症状を発見できれば、治療の選択肢も広がります。また年に一回程度の検診により現在の心臓の状態を確認することも大切です。

そしてこの病気に限らず、愛猫を健康で長生きさせるためには健康な食生活や外敵の少ない室内飼いをすることも大事です。そうすれば、一命にかかわるような病気を少しでも減らすことができるでしょう。

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