多飲・多尿に要注意 ~犬のクッシング症候群~

クッシング症候群には医原性と自然性のものがあります。ステロイドを3ヶ月以上飲ませている子では注意が必要です。お腹が膨れる、毛が薄い、ハアハアと荒い呼吸が増えたなどの症状に加えて“多飲・多尿”という症状が現れたら要注意です。


クッシング症候群ってどんな病気?

クッシング症候群は別名「副腎皮質機能亢進症」と呼ばれています。腎臓の上にある副腎の中にある副腎皮質という内分泌腺の異常によって、そこから出る副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が多量に分泌されることにより起こる病気です。副腎は生きるためにとても大切な器官なので、その異常は体に大きな影響を及ぼし、さまざまな変化を与えます。

この病気は症状に特徴があり、ビール腹のようにお腹が膨らむ・左右対称の脱毛・皮膚が弱々しくなる・多飲多尿・活発でなくなり寝てばかりいる、などの体の変化が起こります。

しかし「お腹が大きくなったのは太ってきたから」「脱毛は年をとってきたから」などと飼い主さんが勝手に思い込んでしまうことも多く、この病気に気づいた時には病状がかなり進行していることもあります。そしてさらにその状態が続くと、感染症にかかりやすくなる・糖尿病・高血圧症・心不全・行動の変化・発作などの神経症状などを起こす場合もあり、命の危険を伴うこともあります。


どうしてこの病気になるの?

副腎皮質ホルモンを出しなさいと命令する「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)」が分泌される脳下垂体や、副腎自体に腫瘍があると、副腎の機能をコントロールできなくなり、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の分泌が多くなります。これを『自然発生クッシング症候群』といいます。また、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を過剰に長期間投与することが原因で副腎皮質ホルモンの量が多くなる状態を『医原性クッシング症候群』といいます。

腫瘍など副腎自体の異常により起こる機能亢進は『自然発生』で、副腎の機能低下を補うために薬を飲ませることで副腎皮質ホルモンの量が多くなり過ぎてしまい起こるものが『医原性』というように発症の原因はこの2つに分かれます。

医原性クッシング症候群の場合、アレルギー疾患などで長期にわたりステロイド剤を飲ませ続けている子に多くみられる傾向があります。


どんな検査でわかるの?

お腹が出てきた、水をよく飲む、毛が薄くなってきた、といった特有の症状が出てきたとしても、一概にクッシング症候群だとはいえません。

クッシング症候群を診断するための検査方法として、血液中や尿中の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の量を測定します。どちらの量が多いのかにより何が原因でのクッシング症候群なのかを知ることができます。ただし、これらのホルモンは「ストレスホルモン」といって体にストレスがかかったり空腹になると多く分泌されたりするので、一回の検査で数値が高いからといって異常があるとは限りません。そのような場合、測定する時間や条件を変えて再検査を行う場合があります。

また、腫瘍が原因で起こるクッシング症候群の検査として下垂体のMRI、腹部のCTやMRIなどで腫瘍の有無を確かめるということも行います。

医原性クッシング症候群が疑われる場合は、今まで飲んでいた薬の種類・投与量・投与日数などの処方歴を詳しく見直す必要がありますので、それらの情報を持って動物病院で相談してみましょう。


クッシング症候群の治療方法は?

自然発生クッシング症候群ではほとんどの場合、薬物療法を行います。しかしその処方は複雑で、薬を飲んだからといって治療に確実性や信頼性があるとは言い切れません。

また、もし腫瘍がある場合は手術による摘出が最善の方法ですが、現段階では犬や猫に対する脳下垂体の手術は行われていないので放射線療法以外に根本的な原因をなくす方法がなく、積極的な治療を望むことが難しいのが現状です。なお、副腎腫瘍の場合、良性であれば摘出により治療の効果も望めますが、悪性の場合は腹腔内やその他に転移してしまう可能性があるので、手術自体が不可能なことも多く、一般的に予後が悪いケースが多いようです。

医原性クッシング症候群の場合には、内服している副腎皮質ホルモン剤を徐々に減らしていけば回復します。また、できればその後は原因となる薬剤をやめるようにしましょう。


どんなことに気をつければいいの?

自然発生クッシング症候群の場合は原因が腫瘍や遺伝によるものなので、飼い主さんが気をつけて防げるものではありません。また、長い間、副腎皮質ホルモンの薬を飲んでいるときに前述のような症状がみられた場合は、医原性クッシング症候群の可能性も考えられます。

どちらにせよ、ご紹介したクッシング症候群のような症状が見られたら、早めに動物病院へ相談してみるのがいいでしょう。


もしもクッシング症候群になってしまったら…

クッシング症候群に罹患しているペットの食事管理は非常に重要です。

症状のひとつとして多飲多尿の傾向があるため、十分に水が飲めない場合にはすぐに脱水症状を起こしてしまいます。そのため、常に新鮮な水を与えられるように注意することが大切です。

また、お腹の膨らみは脂肪によるもので、これは代謝の変化により筋肉の消耗が激しくなり、筋肉が脂肪へと変わってしまうことが原因です。そのため、できるだけ低脂肪で適度なたんぱく質が入っている食事を与えましょう。ただし、病状によって食事管理の内容は異なるため、必ず獣医師の指示に従いながら行いましょう。


まとめ

クッシング症候群は、管理するために大変な努力が必要となる病気です。この病気になってしまったペットは、進行すると徐々に重篤な病的変化が現れてくるので、飼い主さんは獣医師と常に連絡を取り合って管理をしていく必要があります。そのためには、検査や治療に対する飼い主さんの協力がとても重要になるため、病気のことをしっかりと理解し、どんな状況でもすぐに対応できるように準備をしておきましょう。

どんな病気にも言えることではありますが、クッシング症候群は特に、日々の管理が予後に影響してくる病気ですので、うまく病態をコントロールして、できるだけ長い期間を元気に過ごしてほしいですよね。

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