「ストレス」という言葉自体は日常的によく耳にすると思いますが、そもそも「ストレス」とはどういう意味か、ご存知ですか?また、ストレスがある時は体に何が起きているかご存知ですか?体の仕組みからストレスを考えてみましょう。
ストレスとは?
ストレス(STRESS)とは、本来は医学用語ですが、現在では日常会話でもよく使われる外来語として広く知られています。言葉の持つ本来の意味ですが、まず医学辞典には「緊張した、ぴんと張る」という語源に続いて、「正常な生理的平衡(ホメオスターシス)を乱そうとする有害な力、侵襲」と表記されています。また、心理学では「個人にひずみ、不均衡をもたらす物理的、心理的刺激」とされています。言いかえれば、「肉体的、心理的に緊張を与える刺激」というところでしょうか。「ストレス=悪」というわけではなく、人間は「緊張感のない毎日よりも、少し刺激があった方がいい」などと思ったりします。これは犬たちにとっても同じで、生きていくうえである程度の刺激は必要です。しかし、それが強くなりすぎると、生理的均衡がとれなくなり、最終的には、病気といわれる状況にまで陥ることも少なくありません。
では、外部からストレスを受けた体はどういう反応を起こすのでしょうか。
まず、腎臓の側にある小さな副腎からホルモンが分泌されます。副腎には、髄質と皮質があり、中のほうにある髄質からはアドレナリンとノルアドレナリン、外側にある皮質からは、糖とミネラルに関係のある2種類のステロイドホルモンを分泌する仕組みになっています。
ストレスのなかでも、「恐怖」を感じるものの場合、最初に、緊急ホルモンといわれるアドレナリンが髄質から分泌されて、まずは「闘争」か「逃避」を選択させる指令を出します。やがて、全身の動きを活性化するために、副腎が働いて分泌される成分(グルココルチコステロイド)が、血液の中にブドウ糖を補給し、ストレスへの応答を助ける働きをしていきます。これらは、中枢神経系の神経伝達物質と呼ばれています。こうした物質が異常に分泌されると、不安や恐怖などを引き起こし、行動や体調にも変化をもたらすとも考えられています。
ペットの問題行動に対する神経伝達物質の役割についてはまだ研究がはじまったばかりですが、人間の疾患では神経伝達物質のバランス異常が寄与していることが多く確認されています。犬の場合も同様に、ストレスとの関係性があるのではないか、と言われています。
犬の心理的ストレス
ストレスの種類には、大きく分けて心理的ストレスと身体的ストレスがあります。
【心理的ストレスの要因】
犬の異常行動は、成長過程でしつけや社会化がなされてこなかった場合だけでなく、飼われる環境や管理の方法によって生じる場合も少なくありません。
その多くには、不安や恐れといったストレスが介在しています。ほんの少しであれば問題はありませんが、過剰になると激しい破壊行動や自傷行為、やがて分離不安症などを引き起こすことになってしまいます。では、そのストレスのもとになる不安や恐れは、どんな時に起こるのでしょうか?
まず、犬が感じている安心な環境とは、急激な変化のない生活であると言えるでしょう。
それを侵したり、普段と違うことが起こると、犬たちはたちまち不安を覚えるのです。例えば、家の修繕では当たり前の工事業者の出入りや工事音も、犬にとっては見知らぬ侵入者であり、不審な物音でしかありません。
外でのストレスについても同様です。犬の性格によっては『初めての公園』『見知らぬ犬』など、不安を感じる要素になってしまいます。また、反対に『長時間のひとりきりのお留守番』もストレス要因になる場合があります。
これはどちらも短時間から少しずつ慣らしていけば大きなストレスをかけずに済む場合が多いので、焦らずに時間をかけて慣らしていきましょう。あくまでも犬の性格によりますので、向き不向きがあるということを忘れてはいけません。
また、引っ越しや家族が増えることなども私たちが生きていくなかではよく起こりうる事柄ですが、これらの環境の変化も犬にとってはストレス源になりやすいものです。
対処法としては、不安や葛藤を生じる原因を減らすことしかありません。
愛犬の不安の原因は家族が増えたことよりも、赤ちゃんなどにかかりっきりになって、家族がこれまでのようにかまってくれなくなったことかもしれません。どうしようもないことだと諦めるのではなく、何がストレスのもとなのかを探り、その解決をはかることが大切です。
■ 新しい環境(引っ越しなど)によるストレス
引っ越しは、犬にとって今までのテリトリーが急になくなることです。
新しい環境に移ったあとの一定期間は、今まで以上に散歩や遊びで時間を共有し、ここも安心だということを実感させましょう。新しく犬を家族に迎える時も同じことがいえます。
■チームの変動(配偶者や子どもの誕生、多頭飼いの開始など)
犬にとって、それまで飼い主と犬だけで構成されていたチーム編成が変わることは、飼い主が思っている以上に大きなことです。特に、ほかの家族に気をとられて、愛犬ヘ向ける意識や時間が極端に減ることは好ましくありません。家族が協力してこれまでと同様の対応を心がけましょう。多頭飼いの開始も、同様に先住犬ヘの負担がかかりやすいので注意が必要です。
■飼い主の生活リズム(不意の外出や予定変更など)
ボスである飼い主の生活リズムが著しくかわると、群れにいる犬は不安を引き起こします。会社勤めなど規則的な時間帯での外出には慣れることも可能ですが、出張や長期の外出が多い場合は、潜在的なストレスを受けることになります。愛犬がなついている家族やシッターにお願いするなど、愛犬が安心して過ごせる環境を整えておく必要があります。
■家庭内の不和(飼い主同士の喧嘩など)
家族の不和は群れの一大事です。愛犬にとっても群れの順位づけに影響するなど、大きな混乱を引き起こすもとです。また、家族間がうまくいっていないと、愛犬への対応も気分しだいになりがちです。家族への不満のはけ口にしてみたり、逆に溺愛してみたりと、愛犬と飼い主との関係に一貫性がない場合も、犬のストレスを増幅させることになってしまいます。
犬の身体的ストレス
身体的ストレスとは、急激な気温変化や運動など、肉体的な苦痛や過度な刺激が中心のストレスです。身体的ストレスが心理的ストレスを誘発する場合もあります。
【身体的負担もストレスを誘発】
最近は、ドッグスポーツをはじめ、災害救助犬の訓練や、病院や老人ホームなどを慰問する活動への参加など、一般家庭の犬が飼い主とともにトレーニングをしたり、人に役立つ作業に取り組んだりすることも増えてきました。それによって、長時間に渡って身体的な負荷がかかることも少なくありません。
走るのが好きだからといって、疲れ果てるまで続けさせると、回復能力をはるかに上回る強い刺激(ストレス)が加わって、身体的、心理的な疲れが蓄積し、健康にも影響を及ぼすことになります。また、暑すぎる、寒すぎるといった体感温度や、歩きにくく心臓を圧迫するほどの肥満も身体的ストレスになります。
このように、散歩をはじめ日常の生活管理が愛犬のストレス増減に影響します。
■ 散歩
散歩がストレスにならないためには、ふたつの条件があります。
まず、犬が散歩が好きなこと。これには歩くことだけでなく、人や犬に会うことが楽しいということも含まれます。そして、飼い主と一緒にいることが楽しければパーフェクトです。一方、ストレスを誘発するのには、歩くことが嫌い、人や犬に会うのを怖がる、おびえながら飼い主にぴったりくっついている、犬が嫌がっても無理に引っ張る、年をとって心臓が悪いのに歩かされる、真夏に歩く、関節が痛いのに歩くことなどがあります。
■ 運動
自転車やバイクで先導するように、犬を走らせている人を見かけることがあります。
多くは中型犬以上の犬で、犬種の特性やドッグスポーツのトレーニングとしてなど、しっかりした運動をさせたいからのようですが、「犬はいくら運動させてもいい」という思い込みは少し危険です。年齢や足の状態(パッドや関節、爪など)によって考慮すべき場合もあります。人の場合も適度な運動は刺激になりますが、過度の運動はストレスになります。
犬の状態を必ず毎日チェックし、行うようにしましょう。
■ 作業
人とともに働く犬(使役犬)は、厳しいトレーニングを積み、各現場で活躍しています。
作業に対して犬が感じる使命感や目標の達成感は、よいストレス(=刺激)だといえるでしょう。しかし、適切なトレーニングで犬の身体に余分な負荷がかかったり、アフターケアを怠ると、それが悪いストレスとなり、作業の成果が上がらないだけでなく、体調にも支障をきたします。作業犬においては、ストレッチなどのケアを行ない、コンディションを整えておくことも大切です。
疲労回復のために必要な休息と栄養補給を適切に行わないと、身体だけでなく心理的にもストレスを抱え、オーバートレーニング状態になってしまいます。
愛犬の身体にかかる負担は、飼い主が的確にコントロールしましょう。
まとめ
ストレスのかかり方や耐久性は、人も犬も個体差があります。過度にストレスがかからないよう、愛犬の性格や求めていることを汲み取り、適切にケア・フォローをすることが飼い主の務めであると言えるでしょう。そしてその行いが飼い主と動物の絆を作っていくのです。
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