ここ数年「メタボ」という言葉が定着し、メタボ健診といわれる肥満に着目した保健指導が行われるようになり、肥満が体に悪いことはもはや常識になっています。これはもちろんペットにも言えることですが、日本の飼い犬の4頭に1頭が肥満であるという報告もあります。
ペットが肥満になってしまう原因やその危険性、解消法についてお話をしていきましょう。
どのくらい太ると肥満?
肥満とは、体に脂肪が過剰に沈着してしまった状態を指します。人と同じくペットの場合も体脂肪率が20%を越すと肥満と判断されますが、犬や猫の体脂肪率は簡単におうちで測ることはできませんよね。ペットが肥満かどうかをおうちでも簡単に確認する方法として、ボディコンディショニングスコア(BCS)と呼ばれる評価法があります。これはペットを外から見ることと触診を組み合わせて判断する方法です。
愛犬・愛猫の体系を見て、下の表と照らし合わせてみましょう。
<引用>環境省自然環境局 総務課 動物愛護管理室 「飼い主のためのペットフード・ガイドライン ~犬・猫の健康を守るために~」
肥満は万病の元?
肥満はどうしていけないのでしょうか? それは、肥満はさまざまな病気をひきおこす原因となるだけでなく、多くの病気に対して悪影響を及ぼすからです。具体的には次のような病気と深い関係にあります。
【糖尿病】
特に猫の場合、肥満が引き金となって糖尿病となる例が多く見られます。糖尿病は血液中の血糖値をコントロールするインスリンの働きが弱くなってしまう病気で、常に血糖値が高い状態になってしまうことから、免疫力が低下したり急激に痩せてきたりし、最終的には死に至る恐ろしい病気です。
【変形性関節症】
肥満によって背骨や手足の関節に過剰な重量がかかりつづけると、その関節は徐々に変形してきてしまうことがあります。重さによって関節表面の軟骨が破壊され、その動きが滑らかでなくなるため、うまく歩けなくなったり、動くたびに痛みが生じるようになります。歩くことが苦痛になると運動量はますます低下するために肥満が増長し、さらに歩かなくなることによって筋肉が衰えると関節はさらに不安定となり、変形が進んでしまいます。ひどい場合には自分の体重で股関節や膝蓋骨が脱臼してしまうことさえあります。
【熱中症・熱射病】
犬や猫は暑くても汗をかくことができませんから、呼吸によって体内の熱を下げようとします。しかし、太って首周りにも脂肪がたっぷりとついている場合には気管を圧迫してしまうため、呼吸困難となり、うまく換気をすることができません。それに加えて全身の皮下脂肪が畜熱の役割をするため、体温を下げることができなくなり、熱中症や熱射病になりやすいといわれています。犬の場合は特にお散歩に出るため注意が必要です。
【その他の病気】
そのほかにも、太っていると全身に血液を送る量が増えるため心臓血管系にも負担をかけ、高血圧になることがあります。手術をするときには脂肪が邪魔になって手術時間が長引いたり、縫い合わせた傷口がつきにくかったり、脂肪に蓄積した麻酔薬のせいで覚めが悪くなったりすることがあります。また、急性膵炎や難産の原因となったり、免疫が低下することから皮膚病などをひきおこす可能性が高くなるともいわれています。
肥満と間違えやすい病気
今回問題にしているのはあくまでもカロリーの過剰摂取による肥満ですが、食べ過ぎてもいないのに肥満体型になってしまった場合には病気が原因である可能性もあります。
心臓疾患による全身の浮腫、心臓や肝臓疾患による腹水、腫瘍による腹部腫大などお腹が大きくなる他の病気や、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などのホルモン異常による肥満の誘発が疑われる場合もあります。
肥満かどうかわからなくても急激にお腹が大きくなってくるような時には、早いうちに一度病院で精密検査をしてもらう必要があるかもしれません。
肥満になる原因
ペットが肥満になる原因の多くは『食べすぎ』です。
一日に消費するカロリー以上の食事を毎食食べていたら、使わなかった分のエネルギーは脂肪として体内に蓄積します。それが積もり積もって肥満となるのです。
「でもうちの子はそんなに食べていないのに…」という方もいらっしゃるかもしれません。確かに太りやすい子というのは存在します。例えば避妊去勢手術をした子はしない子に比べて一日の基礎代謝量が減るため、太りやすいと言えます。また、遺伝もやや関係があり、寒い地方出身の子や水鳥猟で使われてきた犬種は脂肪が沈着しやすく太りやすいと言われています。室内で飼われている子は外で飼われている子よりも運動量は少ないでしょうし、歳をとって落ち着いてきた子は若い子よりも消費カロリーは少ないため、太りやすいといえます。つまり、それぞれの子に合った食事を与えていないと肥満になるということなのです。
また、食事の量はきちんと計ってあげているけど、おやつは計算をせずにあげている場合も要注意です。おやつをあげる場合はカロリーを確認し、その分の食事量を減らすようにしましょう。
肥満解消の食事とは?
では、ペットが肥満になってしまったらどうしたらいいのでしょうか。食べすぎで太ってしまったのだから毎日食べているフードの量を単純に減らせばいい、と思いますか?
しかし、今まで食べていた食事の量だけを減らしたら、確かにカロリーは減りますがそれと同時に他の栄養分やビタミン、ミネラルなどが今度は足りなくなってしまうかもしれません。それに明らかに量が少なくなったら、空腹でストレスを感じてしまうかもしれません。今はペットショップにたくさんのダイエット用のフードが売られており、糖尿病などを併発しているような子のためには動物病院専用の減量用フードも用意されています。これらのフードは食べる量はそのままで、カロリーだけを控えめにした特別食で、ペットは減量によるストレスを感じることなく健康的に肥満を解消することができます。
しかし、ダイエット用フードは一般的なフードに比べて味が薄く、中には食べてくれない子もいると思います。その際はトッピングなどで工夫し、食べる楽しみを作ることもひとつの手です。
急激にやせることは危険!
ダイエットの必要性が分かったからといって、あまりに一生懸命になり過ぎてペットに過激なダイエットを強制することもまたいいことではありません。特に太ったネコちゃんを痩せさせようと絶食に近いような急激な減量を行うと、肝リピドーシスという肝臓疾患になり、命に危険が及ぶこともあります。ペットのダイエットはおよそ1週間に体重の1%を目安にゆっくりと行わなければなりません。例えば、10キロの子を8キロまで落とすには1週間にだいたい100gずつ、4ヶ月くらい時間をかけてゆっくりと行わなくてはいけません。
運動に関する注意点
ペットも肥満解消にはカロリーを消費するように運動をすればいい、そう思われる方もいらっしゃると思います。しかし、運動療法にはいくつか注意が必要です。まず、猫の場合犬のようにお散歩をするわけではありませんし、おもちゃで遊ばせても疲れたらすぐにごろん、と寝てしまいます。猫の運動療法はその子の性格にもよりますが、なかなか難しいと思います。
また、犬でも肥満気味な子に無理な運動をすることは逆に関節や心肺機能に負担をかけて悪化させてしまうこともあります。全速力で走ったり、段差のある場所での運動は身軽になるまでは控えたほうがいいでしょう。関節に負担をかけずに筋肉を使う運動として水泳がありますが、特別な施設が必要ですし、定期的に行わないとあまり意味がありません。肥満解消に適度な運動はもちろんしたほうがいいのですが、どのような運動をどの程度すればいいのかは獣医師の指示に従って行いましょう。
食事の管理について
減量が成功し適正体重に戻ったら、二度と肥満にならように今度は太らない食事量を探しましょう。始めのうちは正しい食事量がよくわからないかもしれません。フードの袋には体重に合わせた給与量というものが書いてありますが、それは大まかな目安に過ぎません。同じ体重のペットでも品種や生活環境の違いによって必要なカロリー量は異なります。
正しい食事量を知るにはまず、計量カップで目安の一日量を取り分けておきます。それを数回分に分けて一回の食事量とし、おやつやごほうびもこの中からあげるようにします。そして、毎日体重を計りましょう。これをしばらく続けてみて、体重が増えるようならば少し減らし、逆に減るようならば少し増やしてみましょう。こうして、体重が変わらない量、適正量を決めていくのです。
おわりに
ペットは人のように自分で食べるものを決めたり買い食いをしたりはしません。ペットが肥満になってしまうのは100%飼い主さんに原因があるということです。確かにペットは食べ物をくれる人を好きになったり、食べ物を食べている時は幸せな顔をしています。しかし、食べ物以外での愛情や絆で結ばれてこそ、本当の幸せではないでしょうか。
正しい食事管理をして、愛犬・愛猫と長く健康な日々を過ごしましょう!
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