シニア期に起こる変化とケア方法

飼育環境の改善や獣医療の進歩に伴って、ペット達の平均寿命は年々延びてきています。
大切なパートナーである愛犬が最期まで幸せに過ごすために私たち飼い主ができることは何があるでしょうか。今回は、愛犬がシニア期を迎えたときの介護についてお話したいと思います。


シニア期に起こりやすい病気

犬も年齢を重ねると人間と同じように「老化」が起こり、様々な変化が見られてくるようになります。
たとえば今まで大好きだったお散歩を嫌がるようになったり、神経質になってきたりなどです。これらは必ずしも「年だから」という言葉で片付けられる問題ではありません。お散歩を嫌がる子の場合、心疾患関節疾患甲状腺機能低下症脊椎疾患などの可能性がありますし、神経質になってきた子の場合は白内障で視力が低下して、見えないことによる恐怖が原因かもしれません。

老犬でかかりやすいと言われている病気には、いま挙げた病気以外にも歯周疾患腫瘍糖尿病前立腺肥大子宮蓄膿症認知障害など数多くあります。これ以外にも老犬で起こる病気はありますし、また、ここに挙げた病気は老犬に限らず若い犬でも起こることがあります。
愛犬の変化は病気のサインであることも多いので、年のせいにせず定期的に健康診断を受けるようにしましょう。


シニア期のケア【食事】

高齢になってくると、消化器に問題がなくても嗅覚の低下によって食欲まで低下することがあります。そのような場合には、フードを人肌程度に温めて香りを出したり、匂いが強く口当たりの良いものを最初の一口だけ手に取って食べさせてあげると、それをきっかけに食べ始めてくれることもあります。

一般的に高齢になると運動量や代謝が低下することにより体が必要とするエネルギー量は少なくなってきます。したがって若いときと同じ食事内容や量では肥満になってしまいます。肥満は様々な病気の原因となるので、愛犬の体重管理に気をつけてあげるようにしましょう。

最近販売されているドッグフードやサプリメントには、犬の老化予防に有効な成分が配合されているものがあります。

・各種ビタミン、コエンザイムQ10…抗酸化作用
・DHA、EPA(不飽和脂肪酸の一種)…脳細胞の機能を高める
・グルコサミン、コンドロイチン硫酸…関節の健康維持

これらは薬と違って即効性は期待できませんが、体を健康に保つ助けにはなると思います。また、それぞれの病気に適したフードを病院で購入することもできるので、獣医師に相談してみるとよいでしょう。


【便秘や下痢など消化器系トラブルが増えやすくなる】

歳とともにの消化器機能は低下してくるため、食事の与え方や内容が原因で便秘や下痢を起こすこともあります。

●便秘をする子の場合
水を飲む量が以前より少なくなっていませんか?そのようなときには缶詰など水分量の多いフードやドライフードをお湯でふやかしたものを与えてみてください。

●下痢をしやすい子の場合
一回あたりの食事量を減らし、食事回数(1日5回程度まで)を増やすとよいでしょう。また、脂肪分は消化を遅らせて下痢を起こしやすくするので、その点に配慮されたフードを与えるようにしましょう。

これらの対策を行っても治らない場合は病気が原因であることも考えられるので、動物病院で診察を受けたほうがよいでしょう。


シニア期のケア【運動】

以前よりも愛犬にお散歩をせがまれなくなって、「歳だからお散歩に行かなくてもいいか」とお散歩の回数を減らしていませんか?

行きたがらないからといって家の中だけで過ごしていると、寝たきりになってしまう時期が早まってしまいます。筋肉を維持するために運動は必要なので、無理のない範囲でお散歩は続けましょう。

後ろ肢が不自由になってしまったワンちゃんの場合、タオルや幅広の布で下腹部を支えるように持ち上げて歩行を補助してあげましょう。歩行を補助する介護用品も販売されていますので、活用してみても良いかもしれませんね。

また、全く歩けないワンちゃんでも日光に当てて外の匂いをかがせたりすることは良い刺激になり認知症予防にもつながるので、カートに乗せてお外に連れていってあげましょう。


シニア期のケア【床ずれ防止】

加齢とともに筋肉や脂肪が落ちてくるため、床が硬いと床ずれになりやすくなります。その場合は犬用の床ずれ防止マットを敷いたり、クッションやタオルを用いて体が床と接する部分を柔かくしてあげてください。

肩や腰など骨が浮き出ている部分は床ずれができやすいので、タオルを丸めたものやドーナツクッションを利用して、それらの部分の下に敷いてあげましょう。姿勢の変更は2時間に1回くらいのペースでしてあげるとよいでしょう。

 

シニア期のケア【グルーミング/日常ケア】

グルーミングは全身に触ることにより体の変化に気づける大切な機会にもなるので、日常的に行いましょう。

ブラッシングは被毛の管理以外にも血流が良くなるなどのマッサージ効果があるので、積極的に行いたいものです。また、寝たきりの長毛犬でオムツをつけている場合は皮膚がかぶれやすくなります。オムツを付けている部分の毛を短くカットしておくと清潔に保ちやすく、かぶれにくくなります。全身のシャンプーが負担になる場合には部分的にお尻や顔周りなどの汚れやすい部分だけ洗ってあげて清潔を保ちましょう。匂いが気になる場合はスプレータイプのものも販売されています。


おわりに

平均寿命で考えると、犬は人間よりも早くその一生を終えます。なので愛犬がシニア期を迎えることはごく当たり前であり、覚悟しておかなければならないことです。愛犬の老いを悲観せず、幸せな余生を過ごせるように、飼い主側も穏やかな気持ちで過ごすことが理想的だと思います。

そして、若い頃からの対策や定期的な健康診断が重要であることは言うまでもありません。

しかし、寝たきりになってしまった愛犬の「介護疲れ」で悩んでいる飼い主さんも多いことと思います。人間の介護でも言われていることですが、そのようなときには一人で悩まず、動物病院のスタッフに相談したり、同じような悩みを抱える飼い主さん仲間とお話してみることをお勧めします。

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