多飲多尿に要注意 ~犬の子宮蓄膿症について~

避妊をしていないメス犬では、子宮に膿が貯まる子宮蓄膿症が高い確率で発症します。子宮蓄膿症は細菌の毒素が腎臓を侵したり、腹膜炎で死亡する可能性もある怖い病気で、治療方法は手術を行うのが一般的です。

この病気にかかると“多飲・多尿”の症状が見られるので、早期発見の良い目安になります。


犬の発情出血と人間の月経は同じ?

メスは「体の司令塔」である脳から分泌されたホルモンの命令によって卵巣から卵胞ホルモン(エストロジェン)が分泌され「卵」が育ち、成熟すると卵胞から卵が旅立つ(排卵)というサイクルを繰り返しています。「陰部からの出血」は、正確には「発情の前兆(発情前期)」の開始を意味します。そしてメス犬がオス犬に交尾を許す瞬間から「発情期」がスタートします。犬ではこの時期に排卵し、常にこのサイクルを6~7ヶ月の周期で繰り返します。

 

よく誤解されていますが、発情の前兆となる陰部からの出血は人の生理(月経)に相当する出血とは意味合いが異なります。人では出産のために用意していた子宮内膜が不必要となり、剥離することによって出血しますが、犬の場合は子宮内膜の剥離ではなく、ホルモンの影響で子宮内膜が充血することによって染み出た結果として出血します。


子宮蓄膿症はどうして発生するの?

犬でも猫でも、発情の後は子宮の中の環境がホルモンの影響で変化します。精子と卵子が受精してもしなくても、卵巣内で黄体ホルモン(プロゲステロン)というホルモンが優勢になり、8~10週間ほどが妊娠の準備段階となります。

 

この時期(黄体期)は、受精するための精子を攻撃しないように免疫機能が低下します。精子が攻撃を受けないということは、子宮に入ってきた雑菌も攻撃を受けにくいということです。さらに受精卵を守るために、子宮の入口(子宮頚管)が閉じられるため卵巣まで精子が進みやすく、膣から侵入した細菌は退治されずに子宮内部で生き残りやすい環境となってしまいます。これが子宮蓄膿症の発生の原因です。猫は交尾排卵動物(最近の研究で猫も自発的に排卵するという報告もある)なので、犬に比べて子宮蓄膿症の発生は一般的に多くありません。


子宮蓄膿症の症状は?

一般的な症状としては食欲低下、嘔吐、脱水、発熱(20%の症例)などがあります。ステージにもよりますが、子宮に貯留した膿汁が多ければおなかがぽっこりしてきます。また犬の場合は、細菌による毒素が腎臓にダメージを与えるため、たくさんおしっこをする結果として水を“がぶ飲み”するようになります(多飲多尿)。

 

もし子宮の入口が開いていれば膣からドロッとした膿汁が排泄され、尻尾の裏や陰部周囲の毛や皮膚に膿が付着して悪臭を放つようになります。しかし子宮の入口が閉じている場合は、子宮の中に膿汁がどんどん貯留していくので、まるで風船が破裂するかのようにおなかの中で大きくなった子宮が破裂して腹膜炎に発展しないよう、早急の対応と十分な注意が必要な状態となります。


子宮蓄膿症の治療は?

初期治療としては、静脈内輸液と抗生物質の投与です。感染菌は大腸菌がもっとも一般的であるため、大腸菌に抗菌作用がある抗生物質を選択する必要があります。しかし、残念ながら抗生物質による単独治療では完治しません。少し古いですが、1987年のある研究によると子宮蓄膿症による死亡率は8%で、一般的に子宮破裂と細菌性腹膜炎と関連しています。したがって、最終的には手術で卵巣と子宮を取り除く方法がもっとも有効な治療の手段です。

早い段階で避妊手術をすれば子宮蓄膿症に関しては100%の予防効果が期待できます。しかし当然ですが、妊娠・出産はできなくなります。


偽妊娠とは?

実は妊娠に“失敗”したすべてのメス犬は発情後、「偽妊娠」の状態になります。つまりホルモン的には妊娠した場合と同じ状態となるのです。もっともわかりやすいサインは「おっぱいが張る」ことでしょう。場合によっては、先走りして巣作り行動やぬいぐるみの世話をすることもあります。通常は1~3週間続くだけなので治療対象とはなりません。


犬の偽妊娠と人間の想像妊娠は同じではない

想像妊娠は強い心理的ストレス(妊娠に対する恐怖や願望)により、月経が遅れるなどの妊娠したようなサインが見られることを指します。つまり生理的には正常であるため、妊娠検査薬(妊娠すると作られる妊娠ホルモン:hCGを検出)は陽性に出ることはありません。また心理的ストレスが緩和された時点でサインは消えます。

一方犬の偽妊娠は、妊娠した時と同じホルモン分泌が行なわれているので、ホルモン検査的には「妊娠陽性」であり、仮に妊娠に対する強い不安があった場合でもストレスの原因がなくなったとしてもサインは消えません。偽妊娠のサインは個体差が大きいですが、強く現れる犬は子宮蓄膿症を発症するリスクが上がるので注意が必要です。


まとめ

子宮蓄膿症は、早期に発見して早急に対処すれば予後は良い病気です。しかし、発見が遅れると最悪の場合、死に至る場合もある恐ろしい病気であることを理解しましょう。

病気の早期発見・早期治療ができるように日頃から犬の様子をよく観察し、“多飲多尿”の症状などがあれば、なるべく早い時期に動物病院へ相談することをおすすめします。

また、妊娠を望んでいない場合は避妊手術を行うのが何よりも確実に病気の予防ができる手段ですので、大切な家族である犬の一生について、飼い主さんが真剣に考えてあげることが大切です。

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