心電図でわかること

“心電図”とは、体の数箇所に電極を取り付けて心臓の動きを調べるための医療機器です。心電図は上下に蛇行している連続した線として表されますが、この線で一体何がわかるのでしょうか?


心臓の仕組みと心電図

心臓は血液を全身に送り出す、いわゆるポンプの役割をしています。心臓は心筋と呼ばれる特殊な筋肉で出来ており、肺で取り込んだ酸素を多く含む血液を、過不足なく送り出すために一定のリズムで休むことなく動いています。この動きは、心臓の右上に位置する「洞房結節(どうぼうけっせつ)」と呼ばれる場所から左下にある心室に向かって一定のリズムで電気信号が発せられることによって作られています。つまり、心臓は自らが作り出した電気の刺激によって筋肉が順番に縮んだり緩んだりを繰り返して効率よく働いているのです。この電気の流れを体の表面につけた電極でキャッチしてグラフにしたものが心電図です。心電図の線の上下は電気がどちらの方向に流れているのかを示し、波形の振り幅は電気の強さを示しています。

心電図は心臓に電気を流す検査と思っている方もいらっしゃるようですが、実際は上記のように心臓で発生した電気を感知する機器のため、ペットが電気でしびれたりすることはありません。

ちなみに、心臓に何らかの障害があるためにこの電気信号がうまく心臓全体に伝わらない時に、人工的に電気信号を出して規則正しいリズムを作る医療機器がペースメーカーです。


心電図検査を行うときには

通常、ペットの心電図検査を行う場合、前と後ろの4本それぞれの足に電極を取り付けます。電極はクリップのような形のものや、吸盤のようになっているものなどがありますが、どれもペットに苦痛を与えないように工夫がされており、電気が流れやすいように電極をつける皮膚には専用のゼリーを塗ります。

心電図の波形はペットが動いてしまうとすぐに歪んでしまうため、検査の間はペットにはじっとしてもらわなくてはなりません。もし我慢が出来なくて動き回ってしまう場合は、少しの間、右側を下にした状態で横に寝た形で押さえることもあります。押さえることで余計に興奮して鳴いてしまったり、呼吸が荒くなってしまう場合は正しい心電図をとることができないこともあります。


どんな時に心電図をとるのか

  • 聴診やレントゲンなどで心臓に何らかの病気が疑われる
  • ちょっとした運動でもすぐにハアハアと呼吸が荒くなってしまう
  • 舌が紫色になることがある
  • 痰が絡んでいるような苦しそうな咳をする

これらの症状がみられると、心臓がうまく機能していない可能性があるため心電図検査を行います。

また、手術の際に麻酔をかけたときや、危篤状態で入院しているときに、ペットの状態をモニターするためにも心電図をチェックする場合があります。


心電図で分かること

健康な状態の心電図は決まった波型が一定のリズムで描かれますが、たとえばこれが一定のリズムではなくなった場合、不整脈が存在することがわかります。また、一定のリズムでも早すぎたり遅すぎたりといった異常が見られることもあります。

心電図の波形に異常がみられた際には、心臓の大きさや機能に問題がある場合があります。たとえば、弁膜症で心臓が肥大した場合や、生まれつき心臓の形に異常がある場合は、心臓の壁を伝っていく電気はそれだけ大回りしたり、異常な方向に流れたりすることになるため、波形が大きく変化します。また心筋梗塞などで心筋の一部が機能を果たせなくなってしまった場合、そこには電気が流れなくなってしまうため、同様に心電図の波形は変化します。

獣医師はこれらのリズムや波形の変化を読み取って、心臓病の原因を推測しているのです。


心電図に異常が見られたら

心電図を測定して、もしも不整脈が見つかった場合には治療を開始します。治療法としては内服薬の投与や、場合によってはペースメーカーを埋め込む手術をします。

また、心電図の異常は分かりにくいこともあるため、超音波検査やレントゲン検査、血液検査などを組み合わせて、どのような病気がどの程度進行しているのかを総合的に判断して推測します。

心臓病と聞くと、不治の病という印象がありますが、根本的な原因を治すことは不可能でも、今の症状を軽くすることの出来る薬もたくさんあるため、悲観することはありません。薬を忘れずに飲ませながら、心臓に負担をかけない生活を心がけて定期的に検診を行うことが、心臓病と診断されたペットの予後の生活には非常に重要です。

心臓に負担をかけない生活とは、

  • 興奮をさせない(来客を控える、激しい遊びをしない)
  • 運動量を調整する(お散歩の時間や距離を調整する)
  • 温度差を少なくする(冬など寒い時期は散歩時に服を着せる)
  • 太らせない

などが挙げられます。


まとめ

最近ではペットの高齢化とともに心臓病も増えてきました。特に小型犬の多くは歳をとると「僧帽弁閉鎖不全症」と呼ばれる弁膜症を発症することが多いです。そのため、飼い主さんも心電図検査を見る機会が増えてくるのではないでしょうか。

心電図は少しの間静かにしていてもらう必要はありますが、比較的体に負担の少ない検査です。ペットの心臓病が増えてきた今、定期的に行う健康診断の中に心電図を加えてみてはいかがでしょうか。

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