フィラリア症という病気は犬を飼っていらっしゃる方ならよく聞く名前ですよね。
「犬フィラリア(犬糸状虫)」と呼ばれる寄生虫が感染することによって、犬の心臓が弱ってしまい咳や腹水がみられ、最終的には死を招く恐ろしい病気ですが、この病気は、実は猫にも起こることがあるのをご存知でしょうか?
猫のフィラリア症
フィラリア症の原因となる寄生虫は「犬フィラリア」と呼ばれる、そうめんのように細長い寄生虫で、最近までは犬科の動物だけが症状を示すと思われていました。
しかし、本来の宿主ではない猫にも犬フィラリアが寄生し、重篤な症状を示すことがあるということが分かってきました。
このことを今まで発見できなかったのは、犬ほど感染率が高くないことと、犬と猫ではフィラリア症の症状が異なり、猫の場合は原因不明のまま突然死してしまうことがほとんどだったからと考えられています。
感染経路
猫への犬フィラリアの感染経路は、犬と同じように蚊を介して行われます。
まず、フィラリアに感染している動物の血液の中には、フィラリアの子虫である“ミクロフィラリア”が含まれています。このミクロフィラリアは蚊の体内で第三期子虫(L3:感染子虫)と呼ばれる状態まで成長をします。このミクロフィラリアを持つ蚊が猫の血を吸うことで、その際に第三期子虫は蚊の唾液と共に猫の体内に入り込み、感染が成立します。子虫は猫の体内で成長しながら皮膚を移動して血管内に入りこみ、約半年かけて心臓に到達して成虫へと成長します。
犬フィラリアにとって猫は本来の宿主ではないため、蚊から感染した第三期子虫のすべてが成虫にはならないといわれていますが、たとえ一匹でも犬フィラリアが心臓に到達してしまうと致命的な状態に陥る可能性があります。
症状
猫が犬フィラリアに感染すると、犬フィラリアが血管内を移動していく過程で咳・苦しそうな呼吸・元気消失・食欲減退・吐き気などが見られることがありますが、これらの症状は一時的なもので、しばらくすると治まってしまうため、単純な気管支炎やアレルギーとして扱われてしまうことがあります。また猫の場合、多くは症状が見られないため感染したことが分からないことがほとんどです。
犬フィラリアの寿命は2~3年のため、成虫が心臓内で死んでしまうと、血液と共に死んだ成虫が肺まで運ばれ、肺の血管に詰まって血行障害や炎症を起こしてしまいます。この際に体の急激な拒絶反応(アナフィラキシーショック)を起こして突然死してしまうこともあります。
診断
通常、犬の場合は犬フィラリアに感染しているかどうかは、血液中に犬フィラリアの子虫であるミクロフィラリアの存在を顕微鏡で確認するか、犬フィラリアの成虫の抗原を血液検査で調べるかのどちらかで判断します。しかし、寄生数の少ない猫の場合、そのどちらも正しい診断を行うことが出来ない場合があります。
また、フィラリア症特有の症状というものがないため、通常の診察では猫の犬フィラリア症を診断することはとても困難です。
治療
いったん犬フィラリアが心臓内に入ってしまうと、駆除することはとても困難です。頚静脈から特殊な器具を使用して心臓内のフィラリアを除去する外科手術を行うこともありますが、この方法はリスクが大きく確実な治療法ではありません。
そのため、これ以上犬フィラリアが感染しないように予防をしっかりと行い、呼吸困難やアレルギーといった症状がある場合にはその症状を抑えながら、感染している犬フィラリアの寿命を待つという方法をとるくらいしか治療の手段がないのが現実です。
予防
現在は猫にも犬と同じように月1回の予防薬があり、それを定期的に服用することによって確実に予防をすることが出来るようになりました。予防薬とは、蚊から感染した犬フィラリアの子虫を血管内に到達する前に体内で駆除する薬で、蚊が出現し始めてから蚊が見られなくなってから1ヵ月後まで続けることがとても大切です。犬を飼われている方でも、よく「うちは室内で飼っているからフィラリアは大丈夫。家の中で蚊取り線香もたいているし」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、私たちも家の中で蚊に刺されることがあるように、「100%蚊に刺されない予防法はない」と思っていたほうがよいでしょう。
まとめ
猫は犬フィラリアの正しい宿主ではありません。そのため、犬ほど感染する確率は高くなく、野良猫の約5%が犬フィラリアに感染している可能性があるという報告があるのみです。また、その一方で飼い猫の約10%がフィラリア症の感染歴があるというデータもあり、さらにそのうちの4頭に1頭は室内飼いだという報告があります。
現在、日本にはまだまだ犬フィラリア症にかかっている犬が実はたくさんいること、また猫が犬フィラリア症になってしまうと死亡してしまう確率が高いということを考えると、猫でも犬フィラリア症の予防をしたほうがよいといえるでしょう。
予防薬については、かかりつけの動物病院に相談してみてくださいね。
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