「膝が関節炎を起こしていて歩くと痛い」、「スポーツをし過ぎて肘が関節炎を起こしてしまった」など“関節炎”という病気は人でもよく聞きますね。実はペットも関節炎は非常によくみられる病気のひとつです。統計によると5頭に1頭の犬は関節炎をもっているといわれています。
しかし、ペットはちょっと痛いくらいでは我慢をして症状を示さないことが多く、4本足で歩くため、歩き方の変化にも気づきにくく、ひどくなってから慌ててしまうことも多いのが実情です。
今回は、犬によくみられる“関節炎”についてお話していきます。
関節炎とは
骨と骨の間には関節があって、体がスムーズに動くようになっています。関節は関節包と呼ばれる袋で囲まれ、中には潤滑油の役割を果たしている滑液で満たされています。関節となっているお互いの骨の表面は滑らかな弾力のある軟骨で覆われており、衝撃を吸収し、非常にスムーズに動くことができる作りになっています。
それが高齢になって新陳代謝が衰えてきたり、肥満で常に関節に余計な負荷がかかっていたり、自己免疫性疾患や感染症になると、関節の表面が滑らかでなくなり、炎症細胞が集まって関節炎となるのです。
症状
関節炎になると、その関節を動かす度に痛みが生じ、関節の可動域が狭くなります。関節炎を起こしやすい関節は主に足の関節か脊椎の関節なので、それらの関節を動かす動作を嫌がるようになります。
次のような症状が見られたら、関節炎を疑ってみましょう。
□お散歩に行きたがらなくなる
□座り込んで動かなくなる
□立ったり座ったりの動作をためらうようになる
□ジャンプをしなくなる、ジャンプをためらって止めてしまう
□歩くときに頭を下げて歩くようになる、背中をやや丸めてゆっくりと歩くようになる
□体をさわられるのを嫌がる、体をさわろうとすると逃げたり怒ったりする
□4本の足を均等に使わなくなる、ケンケンで歩くようになる
□全体の動作がぎこちなくなる
また、常に体が痛いのでそのストレスから元気や食欲がなくなったり、イライラして神経質になることもあります。
次に関節炎をおこす代表的な病気をご紹介します。
病気1:『 膝蓋骨脱臼 』
膝のお皿の骨(膝蓋骨)が外れてしまうことを膝蓋骨脱臼といい、トイ・プードルやヨークシャー・テリアなどの小型犬で多く見られます。中には生まれつきの骨格や靭帯のつき方で常に外れやすい子がいますが、その度合いがひどい場合には膝蓋骨は常にはずれたままになり、膝関節は変形して関節炎を起こしてしまいます。うしろ足を曲げようとすると痛いため、ケンケンで歩いたり、爪先立つような姿勢になって小股で歩いたりします。
病気2:『 股関節形成不全症 』
股関節形成不全症とは、骨盤と大腿骨をつなぐ股関節が生まれつきっかりとはまっていない病気です。そのため、不安定な関節の軟骨同士がぶつかって関節炎を起こしてしまいます。遺伝が関与しているといわれ、ラブラドール・レトリバーのような大型犬や超大型犬でよくみられます。股関節を動かすと痛みが出るため、なるべく小股で腰を振って歩くようになり、その独特の歩き方は“モンローウォーク”と呼ばれています。
病気3:『 リウマチ性関節炎 』
リウマチとは、本来は外部からの異物を攻撃する免疫反応が、自らの体内のたんぱく質を攻撃するという異常によって起こります。原因はまだよくわかっていませんが、この病気になると左右対称に関節炎が進行していきます。手根関節や膝関節などの関節が炎症によって変形することが多く、進行をそのままにしておくと最終的には歩けなくなってしまいます。
病気4:『 変形性脊椎症 』
本来一つ一つが独立している脊椎同士の間に骨が橋をかけるように増殖して、進行するといくつかの脊椎がつながって固まってしまう病気です。椎間板ヘルニアも原因の一つと考えられていますが、高齢の犬に多いことから加齢による骨の変化によるものといわれています。脊椎がつながるだけではあまり症状を示しませんが、増殖した骨や椎間板が脊髄神経を圧迫すると、炎症を起こし、しびれや麻痺の症状があらわれることがあります。
関節炎になってしまったら
もし関節炎の原因が骨の変形によるものである場合には、根本的な治療は外科手術しかありません。たとえば、変形してしまった股関節を人工関節に置換したり、膝蓋骨の脱臼を修復するために靭帯の付着部を付け替えたりといった手術です。
しかし、関節部の手術は非常に困難であることが多いため、骨の変形がまだひどくなく、関節炎がまだ軽症の場合には内科的に消炎剤や軟骨を保護するサプリメント(コンドロイチン硫酸・グルコサミン)などを投与して、これ以上炎症が悪化しないようにして様子をみていきます。
おうちで気をつけること
動物病院で行われる治療のほかに、関節炎をこれ以上ひどくしないためには、おうちでの管理が非常に重要になります。
室内飼いの子の場合は部屋の床材に気をつけましょう。滑りやすいフローリングの床材は、足の関節に余計な負担をかけるだけでなく、転んで腰などを打つ可能性があるため、滑りにくいカーペットやコルク材などを敷いてあげとよいでしょう。
段差の上り下りは足や脊椎の関節に負担をかけるので、お散歩のときにはなるべく避けるようにしましょう。室内の階段にはゲートをつけ、ベッドなどの上り下りは人が手助けをするか、スロープをつけるようにしましょう。
また、寒いと関節の痛みは強まるので、保温には十分気を配り、体を冷やさないように冬のお散歩には防寒着を着せるとよいでしょう。
注意しましょう
①肥満
余計な体重は体の各関節に大きな負担をかけます。支えきれないほどの重量が常に関節にかかることによって、軟骨はすり減り変形していってしまいます。もともと太っている子が関節炎になるケースが多いのですが、関節炎になると体を動かすたびに痛みが生じることから、ペットはあまり動かなくなってしまいます。運動量が減ると消費エネルギーも少なくなるので、ますます太りやすくなり、関節炎はもっと悪化していってしまうのです。食事療法による体重管理は、関節炎のときにとても重要です。
②運動不足
「痛がっているときには体を動かしてはいけないのでは?」 と思われる方もたくさんいらっしゃると思います。確かに炎症を悪化させるような段差の上り下り、急激なダッシュや方向転換、ジャンプなどの無理な動作はさせてはいけません。しかし、もしまったく動かない生活をしていると、筋肉はどんどん衰えてしまいます。筋肉は関節の前後周囲で安定して動かすサポートをする働きをしているため、もし筋肉が衰えてしまえば、支持のない関節はますます不安定になってしまい、関節内の軟骨がぶつかり炎症を悪化させてしまいます。獣医師の指導のもとで軽いお散歩は毎日行ったほうがよいでしょう。さらに、もしできるのであれば、無理のないマッサージやストレッチ、関節に負担をかけにくい水泳療法などを取り入れてみるのもよいでしょう。
③カルシウムの摂りすぎ
骨の病気を予防しようとして、カルシウムをたくさん摂ったほうがよいというのは大きな間違いです。特に成長期の犬にカルシウムを過剰に与えると、かえって骨の成長を妨げることが知られています。総合栄養食の子犬用フードにはすでに成長期に必要なカルシウムが含まれています。それにさらにカルシウム剤などを添加すると、骨が正しい形に成長しなかったり、関節を覆う軟骨の正常な接着を阻害してしまい、関節炎を起こしやすい関節を作ってしまうことがあります。
まとめ
関節炎はよく聞く病気ですが、急激な変化は見られないし、動きが悪くなるだけで命に別状がある病気じゃないからと、しばらく様子をみられる飼い主さんもいます。しかし何もいわない動物たちにとって、痛みというものは非常に強いストレスになります。痛みからご飯を食べなくなり、筋力や気力が衰えてしまい、病気に対する抵抗力が低下してしまいます。ペットの痛みのサインにはなるべく早く気が付き、対処してあげることがとても大切です。
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