子犬は要注意 ~犬ジステンパーウイルス感染症~

犬がかかる怖い病気のひとつに、伝染性のウイルス病がありますが、中でも犬ジステンパーウイルス感染症という病気は代表的なものです。ワクチンを打っていても免疫力が十分でなければ感染してしまうことがあり、何ヶ月もたってから発症することがわかっています。今回は、そんな犬ジステンパーウイルス感染症の病態や、予防などについてお話します。


犬ジステンパーウイルス感染症とは?

犬ジステンパーウイルス感染症(以下、犬ジステンパー)とは、伝染力の強い病気で、人間の麻疹(はしか)に似たウイルスが原因とされています。

感染した犬の健康状態で予後が左右され、免疫が落ちていたり、健康状態が不安定な犬が感染すると死亡率は50~90%と非常に高くなります。その中でも、特に母乳による免疫がなくなる生後50~90日齢のワクチン未接種の子犬は、もっとも高い確率で感染します。また、犬ジステンパーに感染した場合、回復したとしても約50%の犬に失明や神経症状など後遺症が残るといわれています。


感染方法 

犬ジステンパーに感染し発病している犬の目ヤニ、鼻水、唾液、尿、便などの排泄物に含まれるウイルスに直接接触した時や、空気による伝播により感染します。特に冬の寒く乾燥した環境では伝染力が強くなり、犬ジステンパーウイルスの寿命日数は室温で7~8日、気温が4度で約2ヶ月間、-10度では半年以上もあります。

また、ワクチン未接種の子犬はもちろん、必要な回数のワクチン接種を済ませていない子犬が新しい飼い主さんの家へ来るまでに、どこかでウイルス感染していることもあります。さらにワクチンの免疫がまだ完全にできていないうちに外へ連れ出してしまうと、感染してしまうことも少なくありません。


症状

犬ジステンパーには若い犬を中心にみられる急性症と、その後にみられる亜急症、さらに成犬になってからみられる慢性症があります。


急性症

感染後、約1週間で39.5~40.5度の発熱を起こします。その後、一旦平熱に戻るので感染していることに気づかないこともありますが、感染後2週間くらいの時期に2回目の発熱が見られます。このときに食欲不振、目ヤニや鼻水、咳、結膜炎、嘔吐、下痢などの症状が出てくるため、この時点で飼い主さんが気付くことが多いようです。

亜急性症

急性症で発病してから2~3週間後、または何ヶ月も経ってから、ほとんどの犬が脳炎からくる神経症状を起こします。これが亜急性症と呼ばれるもので、脳の中に潜んでいるウイルスが原因で起こります。6ヶ月齢より若い犬に、突然原因不明の神経症状がみられた場合には、犬ジステンパーの亜急性発症が疑われます。よだれを垂らしたり頭を振ったり、歯をカタカタ鳴らすような行動をするといった短い発作が特徴です。

また犬ジステンパー特有の症状で、足や鼻の皮膚をウイルスが攻撃して鼻や肉球(パッド)の皮膚が厚くなる、“ハートパッド”と呼ばれる状態になることもあります。

この時点で死亡してしまう場合と回復する場合がありますが、犬ジステンパーに感染すると、その後回復しても神経に障害が残ることもあります。

慢性発症

さらに犬ジステンパーは慢性の発症も知られています。これは4~8歳の中年の犬に見られるもので、徐々に進行したときには痙攣や麻痺を起こします。


治療方法

残念ながら現代の獣医療では、犬ジステンパーウイルスそのものを退治する有効な治療方法は見つかっていません。抗生物質が細菌の二次感染を防ぐために使用され、そのほかには、嘔吐・下痢を防ぐ投薬、および神経症状による発作を抑える抗けいれん剤や鎮静剤などを投与したりする対症療法が行われます。さらに必要な栄養や水分の補給で体力の回復を高める治療を行います。このような治療で抵抗力をつけさせ、感染犬自身の体内で犬ジステンパーウイルスに対する「抗体」を作ることにより、自然治癒を期待するしか手段がないのが現状です。

治療の成果は、飼い主さんがいかに早く発見し、早めに治療ができるかで変わってきます。また、犬の年齢、抵抗力、過去のワクチン接種の有無、ウイルスの強さによっても予後が異なってきます。


予防方法

犬ジステンパーウイルスの含まれたワクチンを接種することで、ほぼ100%予防することができます。子犬期から老齢期まで、適切なワクチン接種を定期的に行いましょう。

しかし、ワクチン接種前に感染してしまうと予防は難しくなってきます。特に急性期をほとんど無症状で経過した場合は気付かず、その後にワクチンを接種するため、接種したのにもかかわらず感染してしまうこともあります。

早くからワクチンを接種することをしっかり覚えておきましょう。


まとめ

犬ジステンパーウイルスは、実は犬やキツネ、タヌキなど犬科の動物だけでなく、フェレットやアライグマ、アザラシ、イルカ、ライオン、トラ、ヒョウなど多くの野生動物に感染するウイルスで、愛犬の感染予防は野生動物を守るためにも役立っています。

特に、最近ペットとして人気のあるフェレットは、このウイルスへの感受性が高いので要注意です。犬同様、犬ジステンパーワクチンを打つことで、予防することができます。


犬ジステンパーは、死亡率が高く回復しても後遺症が残る可能性がある恐ろしい感染症です。現在は、有効な治療薬がないため、最大の対策はワクチン接種による予防です。

しっかりと期間を守り、定期的に予防接種をしましょう。