犬と猫の肥満細胞腫について

腫瘍にはさまざまな種類がありますが、『肥満細胞腫』という腫瘍を聞いたことはありますか?”肥満細胞”といっても肥満とは関係なく、犬猫に発症することが多い腫瘍です。今回は、犬と猫の肥満細胞腫についてそれぞれ解説します。


肥満細胞種とは?

肥満細胞は、体のさまざまなところに存在し、過敏反応(アレルギーなど)や炎症反応、免疫反応に深く関わっている細胞です。肥満細胞腫とは、この肥満細胞が腫瘍化して増殖したもので、犬や猫やフェレット以外の動物ではあまり見られません。

肥満細胞種は、犬では皮膚にできる腫瘍の中で1番多く、猫では2番目に多くみられます。また、犬においては悪性傾向にあるものが多いといえます。なぜ犬猫に多いのかの直接的な原因は解明されていません。


犬の肥満細胞腫

犬の場合、肥満細胞種のできやすい年齢は平均8~9歳で性別に差はありませんが、発生リスクの高い犬種は存在します。

・ブルドッグ系(ボクサー、ボストン・テリアなど)

・ラブラドール・レトリバー

・ゴールデン・レトリバー

・シュナウザー        など

 

一般的に、ブルドッグ系は良性のものが多く、また最近では、パグにおいては皮膚のさまざまな場所にできる良性多発型と呼ばれるものが増えているようです。


【犬の肥満細胞腫】できやすい場所

ほとんどが皮膚に発症します。まれに口や内臓にも発症しますが、転移によるものがほとんどです。多くの腫瘍は限局性の小さい塊で、約50%が体幹~陰部周囲、40%が四肢、10%が頭部~頸部に発生し、10~15%は多発する傾向にあります。


【犬の肥満細胞腫】症状について

良性のものは肉眼で見た場合、大きさは直径1~4cm増殖は緩やかで表面の脱毛はあるものの潰瘍化はまれです。しかし増殖が緩やかであっても、必ずしもその後の進行を予想する手ががりにはならないので注意が必要です。

また、悪性のものは増殖が急速で、腫瘍の周りに炎症が起こり、赤みが強く、潰瘍化する傾向にあります。

この腫瘍の特徴として、過剰にさわると肥満細胞の中にあるヒスタミンなどの物質が放出され、腫瘍のまわりが赤く蕁麻疹のように膨れることがあります。腫瘍をさわったことで、急に赤く大きくなったり小さくなったりと、驚かされることがあります。

この放出されるヒスタミン物質が血液中に多く流れるようになると、全身への影響として、胃・十二指腸潰瘍などによる嘔吐、下痢、また血液凝固障害などの症状が現れるようになります。この状態は、非常に注意を要する事態といえます。


猫の肥満細胞腫

犬と異なり、肥満細胞型と組織球型の2つのタイプが存在し、発症しやすい年齢として肥満細胞型は老齢(平均10歳)、組織球型は若齢(平均2.4歳)で見られる傾向にあります。

病気の型としては、やはり皮膚にできるものが多く、内蔵への発生は少ないといえます。しかし猫は犬と比べれば内臓にできる割合は多く見られます。内蔵型は、老齢で多く見られ、脾臓や消化管に発生します。


【猫の肥満細胞腫】できやすい場所 

頭部(耳や耳のつけ根)に1番多く、次に体幹、四肢に多く見られます。通常は、孤立した0.2~3cmの隆起した白いもので良性が多いようですが、潰瘍があるもの、眼の上で周囲の皮膚との境界が不明瞭なものは、悪性の傾向が強いといえます。内臓(脾臓や消化管等)型は、他臓器への転移なども引き起こすため、非常に注意が必要です。


【猫の肥満細胞腫】診断について

一般的に、注射の針を腫瘍に刺して少量の組織を採取し、その標本を顕微鏡で観察する細胞診による診断は可能です。細胞診は麻酔の必要なく簡便な検査ですが、最終的な悪性度などの診断には病理組織検査が必要で、これには外科的に採取した組織が必要です。


【猫の肥満細胞腫】治療について

しっかりと診断し、状況に応じた治療計画を立てることが大切です。一般的な第一選択としての治療は、切除手術を行い正常部を含めて大きく切って完全に取り除くことです。完全に取り除くことができれば、完全治癒も夢ではありません。

放射線療法も有効ですが、基本的には切除手術との併用や手術が困難な場合に行われます。そのほか、補助的化学療法(抗がん剤・ステロイド剤など)も状況に応じて行われます。さらに補助的ではありますが、腫瘍随伴症候群に対する内科療法は、ほかの処置を行う上でも大変重要な治療となります。


おわりに

細胞腫という病名は良性によく使われますが、この肥満細胞腫においては決して良性を意味せず、潜在的に悪性と認識したほうがよい場合が多いといえます。

まずは早期発見、早期治療を心がけたいことはいうまでもありません。皮膚にできものを見つけたら、まずは少しでも早く獣医師の診察を受けることと、注意深く経過を観察することが重要です。

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