犬猫用の車いすについて

人と同じように、歩けなくなってしまったペットのためにペット用の車いすがあることをご存知でしょうか?日本ではまだ多くは見かけませんが、海外では車いすに乗った犬がほかの犬たちと同じように散歩をしたり遊んでいる風景がよく見られます。今回はペット用の車いすがどんなものなのか、その使用にどんな意味があるのかをお話します。


どんな時に使うの?

ペット用の車いすは人間と同じように、主に交通事故や脊椎疾患・脳障害などの神経疾患による麻痺、高齢で寝たきりになり筋肉が弱ってしまった場合など、自分の力で思うように立てなかったり歩けなくなってしまったときに使います。ベルトなどで車輪のついた器具を体に固定させて使用しますが、犬や猫は人間のように自分の手で車輪を回すことができません。そのため、代わりに人が押してあげたり、四本足のうち問題のない足を動かすことで、車輪が回って動くことが可能になります。そうすることで、車いすを使わなければ見られなかった景色や臭いを感じ取ることができ、何といっても“歩く”ことができるようになります。


気持ちも前向きに

「今まで何も問題なかったのに、急に歩けなくなった…」

事故や病気で突然このような事態になることは、どの犬や猫でも起こり得ることです。もしそうなってしまったら、その子自身が歩けなくなるだけでなく、介護する飼い主さんにも大きな負担がかかることでしょう。しかし、もし飼い主さんがその負担を苦痛だと感じて何もせずあきらめてしまったら、犬もあきらめるしかありません。特に毎日外へお散歩へ行き自由に歩いていた犬にとって、そのストレスは大きなものとなるでしょう。

そんなとき、車いすを使うことが一つの解決法となります。歩けなくなった理由や病気にもよりますが、車いすを使うことで足の筋肉を回復させるリハビリができたり、足自体は動かなくても体が自由に動けることで、ペット自身はもちろん、飼い主さんも明るい未来へつながる道が見えてきます。


車いすを使うメリット

では、車いすを使うことで具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか?

動けなくなってしまった犬を、キャリーバッグやカートに入れて外に連れて行くことは可能ですが、車いすはペット自身が自分の好きなところへ自由に動くことができます。きっとそれは、その子にとって、一番うれしいことでしょう。そしてその姿は飼い主さんの気持ちをも明るく、前向きにしてくれます。

また、車いすのサポートによって、今まで引きずっていた足の擦過傷を防止します。そして、伸ばしたままだったり違う向きにあった足を自然の状態に保つことによって、曲がっていた身体を正しい位置にすることができます。神経の障害による麻痺の場合、これが感覚を取り戻す助けにもなることもあります。そして体を動かすことにより、動かなくなっている部分の筋肉が刺激されるため、回復を目的としたリハビリへとつながります。


車いすをリハビリに活用

 

従来、車いすは歩行の回復が認められない動物に対して用いる介護用具の一つとして使用されてきました。現在でもそのように考えている人は少なくないでしょう。しかし、まだ足が自発的に動く子に対しては車いすが補助的な役割となり、自然に足の筋肉を使うようになるため、リハビリとして大きな成果を期待することができます。人間の赤ちゃんが補助車付きの歩行器で歩行訓練をおこなうのと同じです。

リハビリはこのような症状のペットにとって、とても大切な運動です。実際、車いすによるリハビリを続けて回復した例もたくさんあり、今では理学療法の一つとして「カートセラピー」とよばれるほど注目されています。


車いすを使うときに気をつけたいこと

車いすはあくまで医療機器であり、個々の機能性や利便性を考えて作るため、ほとんどがペット用車いすの専門メーカーでのオーダーメイドとなります。制作時間や費用もそれなりにかかるため、中には自分で作ることを試みる方もいらっしゃるでしょう。飼い主さんがペットの様子を見て細かい調整をしながら制作できたら、それはとても素晴らしいことだと思います。しかし、もし体に合わないものを作ってしまうと、車いすが体にあたっているところの摩擦で皮膚炎を起こしたり、余分な可動や車いす自体が体に比べ重すぎて無理な動きをさせてしまい、症状を悪化させたりタイヤが上手く回らず倒れてしまうなどの危険性もあります。そのため、自作にはくれぐれも注意が必要なので、車いすの使用、制作を考えるときには必ず獣医師とよく相談するようにしましょう。

また、実際に使用するときにもいくつか気をつける点があります。まず段差のあるところや傾斜地ではなるべく使わないようにしましょう。それと、長くつけていると休んだり、排泄ができない場合もあるため、使用時間にも配慮してあげましょう。基本的には部屋の中では車いすをはずして、ゆっくり休ませてあげることが大切です。

もし、手術をした後に車いすを装着するときには、装着のタイミングも考慮します。あまりにも早すぎると車いすに頼ることを覚えてしまい、体の機能回復ができず逆効果になってしまうこともあるので、装着に一番いいタイミングを獣医師と相談して決めましょう。


おわりに

大事な家族に突然悲しい出来事が起きたとしても、「障害があっても楽しく生活させてあげたい」という願いは誰でも持つと思います。今までのように体を自由に動かせなくなったペットのつらさを理解して、少しでもやわらげることのできることは何かと考えてみたときに、車いすはそんなペットの幸せを考える飼い主さんの味方となり、さらにはペットと飼い主さんの双方に明るく楽しさに満ちた日々を取り戻すお手伝いをしてくれることでしょう。

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