マダニから人へ感染する病気

ノミと同様、ペットの皮膚に寄生する「マダニ」
マダニは血を吸うだけではありません。ウイルスをもっているダニに吸血されると、感染症にかかる可能性があります。さらに動物だけでなく人にも感染し、中には死亡例もある恐ろしい感染症もあるのです。
今回はマダニから感染する病気についてお話します。


マダニの吸血と病原体の感染

マダニはさまざまな哺乳類や鳥類の皮膚に口を差し込んで吸血します。 

普段は草むらなどに潜んでいますが、動物の熱や振動、吐く息の二酸化炭素などを感知することができるので、野生動物やお散歩中の犬が近づいてきたら、すぐに乗り移ってくるのです。8本の足にはそれぞれ鋭い爪があり、毛や皮膚にしがみついて皮膚の柔らかい顔や腹部に移動し、吸血を始めます。

マダニの口は一度皮膚に刺し込むとセメント様の物質を注入してがっちり固定してしまうので、触ったりしたくらいでは抜けなくなってしまいます。 

長時間かけて体いっぱいに血を吸うと、その体重は200倍にもなります。そうなったらマダニは一度地面に落ちて脱皮をします。そして一回り大きくなって、また別の動物に乗り移り、それを繰り返してどんどん大きくなっていくのです。
成虫になると3,000から4,000もの卵を産み、そこから孵った幼ダニが、また吸血を始めるというわけです。

マダニが吸血するときには唾液を皮膚に出していますが、これには周囲の細胞を溶かして、血液を凝固させなくする作用があります。そして、吸血するときに血液中に存在しているさまざまな病原体を一緒に吸い込み、次にまた別の動物を吸血するときには唾液中にその病原体を一緒に排出するのです。このようにしてマダニは、さまざまな病気を媒介しているのです。


マダニによって人に感染する病気(ズーノーシス)

日本では次のような病気がダニを媒介として動物から人へ広がっているとされています。

1.重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
病原体はSFTSウイルス(SFTSV)で、2013年1月に国内の患者が初めて確認された新興ウイルス感染症です。ウイルスを保有しているマダニに直接咬まれること、もしくは、マダニに咬まれて感染した動物(野生、屋外で飼育されている動物)の体液などにより感染します。感染患者の血液、体液との接触感染も報告されています。
潜伏期間は6日~2週間程度です。主な症状は発熱と消化器症状(おう吐、下痢など)が中心で、倦怠感、リンパ節の腫れ、出血症状なども見られます。致命率は約20%です。

2.リケッチア感染症

紅斑熱群リケッチアと呼ばれる細菌が原因です。世界中にリケッチア感染症と呼ばれる病気がありますが日本紅斑熱は日本特有のズーノーシスです。頭痛、発熱、倦怠感などの症状が見られ、重症では死亡することもあります。


3.エールリヒア感染症

エールリヒアという細菌によってひきおこされる病気です。発熱、頭痛、体の痛みなどのインフルエンザ様症状が見られます。病気が進行すると昏睡に陥ることもあります。


4.野兎病

野兎病菌という細菌が原因となります。細菌の数が少量でも発症しやすく、リスやネズミ、ウサギなどが感染すると言われています。ペストに似た症状が出るといわれていますが、主に(1)潰瘍リンパ節型 (2)眼リンパ節型 (3)リンパ節型 (4)チフス型の4パターンがあります。


5.ライム病

原因は細菌の一種であるスピロヘータのボレリア菌で、ノネズミや小鳥などが保菌者となります。症状は特徴的な遊走性紅斑、発熱、神経症状などで、死に至ることもあります。


6.バベシア感染症

バベシア属の原虫(単細胞動物)が原因となります。赤血球内に寄生し、発熱および溶血性貧血が見られます。


7.ダニ媒介性脳炎

フラビウイルスというウイルスが原因で、日本では北海道で発症が確認されています。頭痛、発熱に始まり、痙攣および麻痺などの脳炎症状をひきおこします。死亡する場合もあり、回復しても多くの例で麻痺が残る、恐ろしい病気です。


まとめ

「ペットの寄生虫感染」としてノミ・マダニ予防を呼び掛けられることが多いですが、実は草むらに入った際に直接マダニに咬まれることにより感染する例も多くあります。

そしてマダニを介する感染症は重症化するものも多く、死亡することもある恐ろしい感染症が多いのです。特にSFTSは地球温暖化の影響か、発生地域が西から北上してきているため注意が必要です。

ペットの寄生虫予防はもちろんですが、草むらに入る際には長袖・長ズボンを着用し皮膚の露出を避けるなどの対策をしましょう。

ペットクリニック.com

獣医師発信のペット情報サイト