「外耳炎」は来院される理由の上位にくるほど、よくみられる病気の1つです。しかし実際にどんな病気なのか、原因は何かなど詳しく知らない方もいらっしゃると思います。
今回は、犬がかかりやすい外耳炎についてと、その原因のひとつであるマラセチアについてお話していきます。
マラセチアとは
マラセチアとはカビ(真菌)の一種で、その中でも酵母菌と呼ばれるものに属します。
マラセチアは、犬や猫の皮膚の表面、耳の中、口の周り、肛門、膣など、正常な皮膚にも存在していて、普段はまったく悪さをしません。しかし脂質や湿度のある場所をとても好み、マラセチアにとって適した環境になると、栄養分をたくさん取り入れどんどん増殖していきます。また抵抗力が落ちているときにも繁殖しやすく、それによりマラセチアが原因となる外耳炎や皮膚炎などを引き起こしてしまうのです。
マラセチアが繁殖している耳アカや皮膚は、顕微鏡でのぞいてみると『だるま』や『ボーリングのピン』のような特徴的な形をしており、現在では外耳炎を起こしている原因の70~80%は、マラセチアが関与しているといわれています。
外耳炎の症状
ではマラセチアが原因の外耳炎になると、どのような症状を起こすのでしょうか?
マラセチアは前述のようにカビの一種です。人間に例えると、同じ真菌である“水虫”に感染してしまったようなものといってよいでしょう。水虫はとても痒いといわれています。それと同じようにマラセチアが耳の中で繁殖し悪さをしてしまうと、とても痒がるのが特徴です。
そして耳の中には、こげ茶色から黒色の特徴的なニオイのあるネトッとした耳アカがたまります。もし耳を痒がるような仕草を目にしたら、耳の中のにおいや耳垢を調べてみましょう。
また、掻き続けることにより耳の皮膚を傷つけ、二次的に細菌感染を起こしてしまったり、炎症によって耳が赤く腫れあがってしまうこともあります。そうなると、最初はマラセチアの感染だけで痒かっただけのものが、やがて痛みも伴うようになるため、触られることを嫌がるようになることもあります。
外耳炎の原因
マラセチア性外耳炎は、耳の中がジメジメして湿気があるような状態のときに最も起こりやすくなります。例えばシャンプーの際に、完全に洗いきれておらず耳の中にシャンプー剤が残ってしまっていたり、水分がきちんと拭き取れていなかった時や、雨の日の散歩や湿気の多い梅雨の時期は要注意です。
さらに耳の垂れている犬や猫の場合は、もともと通気性が悪く耳の中が蒸れやすいため、マラセチアの増殖には絶好の場所なのです。
そのほかにも、体臭のある脂っぽいベタベタした皮膚体質の場合は、耳に限らず皮膚に対して「脂漏症」という病気になりやすいといわれています。この体質とマラセチアは、とても相関性が高いといえます。
●アレルギーも原因のひとつ
また、もう一つマラセチア性外耳炎になりやすいといわれる体質があります。それはアレルギー体質の場合です。アトピーやアレルギー性皮膚炎を持っている場合の大多数に、このマラセチアが関与しているといわれています。
アレルギー体質の子はもともと皮膚の抵抗力が弱く、マラセチアもアレルギーの原因となってしまいます。そのため、体質に問題がない子と比べると常にマラセチア性外耳炎を引き起こしやすい状態にあり、外耳炎のみならず皮膚炎に対しても、最近では「マラセチアアレルギー」として注目されています。
外耳炎の治療
お話したようにマラセチアはもともと常在菌です。しかしなんらかの原因でマラセチア性外耳炎が起こり、耳の中に液体や耳アカが大量にたまると、それを栄養分にしてさらに増え続け悪化していきます。よってこの病気を治療するには、第一にマラセチアが増殖する環境を改善することが必要です。
一番重要なのは、耳の中を清潔に保つことです。耳の洗浄液やシャンプーで洗浄し、耳アカをきれいに取り除きます。洗浄後は、耳の中に湿った環境を残さないよう、水分を完全にふき取ることが重要です。
そして抗真菌剤の入った点耳薬を入れて、原因となるマラセチアを殺菌し治療します。
特異体質でも上手にコントロール
体質として脂漏症やアレルギー性皮膚炎を持っている子に対しては、まずその基礎疾患に対する治療や体質改善が必要になります。
マラセチア性外耳炎を治す手助けとして、脂漏症の子の場合は脱脂作用の強い二硫化セレンの入ったシャンプーや抗真菌剤を使うことで症状を改善させていきます。また、アレルギー体質の子の場合は、薬で炎症を抑えたりアレルギー用のフードを食べさせることにより皮膚に抵抗力をつけさせ、マラセチアの増殖を出来る限り抑えます。
そして特異体質に合った根本的な治療と共に、通常のマラセチア性外耳炎の治療を行い、上手にコントロールして治していきましょう。
おわりに
毎日の生活の中で、ペットの健康状態や目に見える皮膚の病気は飼い主さんにもわかりやすく、すぐに気づくことが多いですが、耳の中は覗いて見なければわかりません。
耳を掻くような仕草が見られた場合や、シャンプーをする際には、耳の中をチェックするように心がけましょう。症状の悪化を防ぐのはもちろん、痒みのつらさは精神的にも大きなストレスとなります。
もしマラセチア性外耳炎が疑われる場合は、早めに動物病院で診てもらい治療を開始するようにしましょう。
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