様々な誤飲 ~タバコ中毒~

ポトリと床に落としたタバコを、ペットが食べてしまった…。

「すぐに何か飲ませた方が良いの?吐かせた方が良いの?どうしたらいいの!?」と、飼い主さんがパニックになってしまいがちなのが誤飲・誤食です。

今回はそんな「タバコ中毒」をはじめとする、家庭に潜む誤飲・誤食の危険性についてお話します。


タバコ中毒とは

タバコ中毒はペットがニコチンを誤飲することによって発症します。

現実的にはあり得ませんが、仮にペットがタバコを吸ったとしても0.5~2mg程のニコチンしか吸収されません。しかし、タバコそのものを食べてしまうとニコチンが全て体内に吸収されるので問題となる場合があります。

特に子犬は見るものすべてを噛んで認識しようとする習性があるため、タバコ中毒事故の危険性が高いです。タバコの銘柄によっても様々ですが、通常1本のタバコには0.1~30mgのニコチン(葉巻:15~40mg、噛みタバコ:6~8mg/g、ニコチンガム:2~4mg、ニコチンパッチ:8.3~114 mg)が含まれています。またタバコの吸殻には総ニコチン含有量の約25%が含まれています。


危険な摂取量

「犬のニコチン中毒量」は20~100mg(約11mg/kg)です。例えば、4.5kgの犬がニコチン中毒の症状を発症する目安は、タバコ2~4本の誤飲と言われています。

ちなみに人間の乳幼児の致死量は、タバコ約0.5~1本(10~20mg)とされています。


タバコ中毒の症状

一般的には誤飲後15~45分以内に症状が出ることが多く、具体的なサインとして興奮、ふるえ、聴覚障害などの症状が見られます。

実際は、タバコを誤飲しても、胃に感じる強い刺激やニコチンによる脳への指令により大部分を嘔吐するので、大きな問題に発展することはそう多くありません。基本的にニコチンは胃からは吸収されず(胃内のpHではニコチンの溶出が遅れ吸収されにくいため)、胃を通過し、小腸に至ると急激に吸収が進みます。従って小腸に到達する前に胃内の刺激で吐くことは生命を守るためには必要なことなのです。

しかし、タバコは水に浸けると1時間で50~70%のニコチンが溶出し吸収が早くなるため、タバコの浸出液を飲んだときは重篤な症状が出現する可能性があるので注意が必要です。誤飲してすぐであれば吐かせることが有効ですが、吐かせるために牛乳等を飲ませることは、タバコを小腸の方に流し込んでしまう可能性があるので避けた方が良いでしょう。

誤飲後4時間経過しても大きな変化が無ければ問題ありませんが、誤飲がわかった場合、なるべく早い段階で獣医師に相談しましょう。


タバコ以外にも気をつけなければいけない誤飲・誤食

宝石

動物が宝石をかじると、宝石の破片に含まれるフタル酸ジブチルによってたくさん唾液が分泌され、吐き気を感じます。この反応は中毒症というより、むしろ味覚反応のためです。一般的に化学物質の味を希釈するために牛乳やツナ缶などを与えることが良いとされていますが、ペットが宝石を摂取したり、その疑いがある場合は必ず獣医師に相談するようにしましょう。


アスピリン

人間用の内服薬がペットに有害となることもあります。アスピリンやアセトアミノフェンなどを主成分としたOTC薬(薬局等で一般的に購入できる薬)は、ペットにとっては「毒」となることがあります。摂取した可能性があれば、必ず獣医師に相談しましょう。


家庭用洗剤

家庭用洗剤の多くは、酸性あるいはアルカリ性の成分を含んでいます。通常、原液を誤飲する以外はバケツの水や水洗トイレの水ためで希釈されているので軽い吐き気を引き起こすだけですが、もし原液を誤飲した場合、口や食道、そして胃がひどくただれます。酸性洗浄剤であれば直後に症状が現れますが、アルカリ性洗浄剤は8~12時間後まで症状が現れません。無理に吐かせるとさらなる症状が発生する危険性があります。どんな家庭用洗剤であれ、少しでも誤飲した可能性があれば至急、動物病院に連絡してください。


防虫剤

防虫剤の最も一般的な有効成分はナフタレンです。防虫剤の誤飲で見られる最も一般的な症状は嘔吐、貧血、無気力、そして発作です。

防虫剤を誤飲したら出来るだけ早く洗い流す必要があります。ペットが防虫剤を摂取したり、その疑いがある場合は獣医師に相談してください。


シリカゲル

新しく購入した衣服や靴あるいはスナック菓子などには、乾燥剤としてシリカゲル(二酸化ケイ素)が使用されています。それは、化学作用を引き起こさず、毒性もありません。腸管から吸収されないので全身性の中毒症状もほとんどみられません。ペットが少し食べた程度であれば過剰に心配する必要はなく、症状は粘膜びらんを起こす程度です。水や牛乳を飲ませて様子をみても構いません。ただし、大量に摂取した場合や嘔吐などの症状があれば獣医師と相談してください。


チョコレート

チョコレートに含まれるテオブロミン(Theobromine)は犬に毒性があり、問題となることがあります。人はこのテオブロミンを効率的に排除できますが、犬はテオブロミンの半減期が長く(17.5時間)体内から素早く排除できないことが原因です。そのためチョコレートを犬が何度も食べると、「蓄積効果」によって遅かれ早かれトラブルに発展する可能性があります。しかし、少量のチョコレートであれば、一度食べたとしてもトラブルに発展するかどうかは個体によって異なります。不安がある場合は、獣医師と相談してみてください。


玉ねぎ

玉ねぎに含まれる成分(アリルプロピルジスルフィド)が、犬にとって毒性があり貧血を起こすことがあります。しかし、犬が「大きな玉ねぎ」を最低1個以上(玉ねぎ5~10g/kg以上)食べると問題となるかもしれませんが、少量の玉ねぎであれば食べても問題とはならないことが多いです。とはいえ個体差があるため、玉ねぎに限らずユリ科(ネギ、ニラ、ニンニク、アスパラガス、ラッキョウ)の食物は犬に大量に与えない方が無難です。


まとめ

誤飲・誤食によってペットの命を危険にさらさないためにも、飼い主さんは日頃からの十分な注意が必要です。タバコはもちろん、上記のような生活用品や食品をはじめ、置き場所などは十分気をつけるようにしましょう。

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