ペットも風邪を引くの?

くしゃみをしている犬や猫を動物病院に連れて行ったら、獣医師から「風邪ですね」と言われたことはありませんか?

そんなとき「ペットも人と同じように風邪をひくの?」と思われた飼い主さんも多いのではないでしょうか?

今回は『ペットと風邪』について、詳しく説明していきます。


そもそも「風邪」って、どんな病気?

そもそも、人でも「風邪」という病気はありません。風邪とは主にウイルスが原因となる急性の呼吸器疾患の総称です。


具体的に風邪の症状としては、

  • 鼻水が止まらない
  • 頻繁にくしゃみをする
  • 熱がある
  • 咳をする
  • 呼吸が苦しそう

などがあります。


重要なことは、このような症状で医師が「風邪」と診断するのは人間だけ、ということです。ペットでも同じような症状が出ることがありますが、そのような症状の場合、獣医師は「呼吸器感染症」と診断します。獣医学において「風邪」という言葉は実は存在しないのです。

ペットが風邪をひくという言い回しは、鼻炎・気管炎・気管支炎などの症状が突然見られたときに、獣医さんがわかりやすく説明するために「風邪(のような病気)です」と言っているに過ぎません。


風邪の症状 

「呼吸器感染症」になって鼻や気管、肺などが炎症を起こすと、いわゆる呼吸器症状と呼ばれる症状がペットにも見られてきます。

初期の場合には水っぽい鼻水をたらしたり、くしゃみをする程度です。しかしひどくなると、もっと粘り気の強い黄色い分泌物が鼻の穴をふさいでしまったり、痰が絡んだような咳をしたり、ハアハアと息苦しそうになったり、といった症状が見られます。

また鼻は細い管で眼とつながっているため、鼻に入った病原体が眼まで広がり、結膜炎によって目やにがたくさん出ることもあります。ペットはニオイを嗅ぐことで食べ物なのかそうでないかを判断しているため、鼻炎になってニオイがわからなくなってしまうと食欲がなくなってきてしまいます。

また熱があればぐったりと元気がなくなってしまい、一日中寝ているようになります。


冬に風邪をひきやすいのはなぜ?

人でも冬になると風邪が流行しますが、それは寒さに原因があります。寒くなると体力や免疫力が低下し、ウイルスに感染しやすくなるからです。

また、冬は空気が乾燥しているために粘膜が弱くなり、呼吸器疾患を起こしやすくなります。呼吸器感染症を引き起こすウイルスは寒さや乾燥に強いため、寒さが続くと病原体の生存期間が延びてしまうことも原因のひとつです。

これらのことは、すべてペットにもあてはまります。


犬の風邪「ケンネルコフ」

犬の場合、ウイルス感染が原因で発症する呼吸器感染症のひとつに、「ケンネルコフ」があります。ケンネルコフは別名、犬伝染性気管支炎といい、症状としては微熱や咳など人の風邪と同じような症状を引き起こします。免疫力が低い子犬や高齢犬が発症してしまうと肺炎を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあるので注意が必要です。「ケンネルコフ」に感染した犬が咳やくしゃみと一緒にウイルスや細菌をまきちらし、犬から犬へと感染していきます。

ただし同じように咳をする症状でも「フィラリア症」や「気管虚脱」などの病気の場合がありますので、安易に「呼吸器感染症」と飼い主さんで自己判断するのは大変危険です。咳やくしゃみが見られたら、なるべく早く動物病院で診断してもらうことが大切です。


猫の風邪「ウイルス性鼻気管炎」

猫の場合は、目やにと鼻水がひどく、くしゃみを連発するなどの症状を引き起こす「猫ウイルス性鼻気管炎」があります。

これは猫のインフルエンザと呼ばれるほど、人の風邪と症状が似ています。「猫ウイルス性鼻気管炎」はヘルペスウイルスもしくはカリシウイルスを病原体とする伝染病の総称です。非常に強い感染力があり、一回くしゃみをするだけで同居する猫に感染してしまいます。 

さらにカリシウイルスが感染した場合には口内炎も発症し、よだれで口の周りが濡れていることもあります。ワクチンがありますが、予防効果は100%ではなく、野良猫に広く感染しているため、子猫を拾った時点ですでに感染している場合も少なくありません。(すでに発症してしまっている子にワクチンは打てません。)

特に子猫や体の弱っている猫などが発症すると、症状がひどくなったり、長引いたりし、進行すると肺炎を引き起こして死亡したり、妊娠中なら流産する恐れもあります。


人のインフルエンザはペットにうつるの?

インフルエンザはウイルスを原因とする伝染病なので、毎日一緒に生活していると、どうしてもペットにも感染してしまうと心配される飼い主さんもいらっしゃると思います。 

犬の場合はウイルスの受容体が人と違いますので、人と犬の間でインフルエンザが感染する心配はありません。また、犬はインフルエンザウイルスに感染しにくいといわれています。

猫の場合は、インフルエンザウイルスに感染する可能性があり、特に鳥インフルエンザに感染した鳥を食べてしまうとインフルエンザになることがあります。ですので、理論上では猫から人への感染は起こり得ますが、その危険性は極めて低いと考えられています。

なぜなら、人が鳥インフルエンザに感染するためには、感染した猫一匹を人が食べるくらいの十分なウイルスが必要となるからです。

飼い主さんの中にはペットと同じタイミングで体調を壊された経験をお持ちの方もいると思いますが、前述のように人とペットのウイルス受容体は違いますので、飼い主さんからペット、ペットから飼い主さんに伝染する可能性はまずないと言っていいでしょう。同じタイミングで体調を崩した場合は、飼い主さんとペットが同じ環境で生活しているため、お互いがウイルスに感染しやすい状態になっていたからと考えたほうがよいかもしれません。


治療法

人の場合、風邪をひいたら「温かくして、消化の良いものを食べて寝ていなさい」と言いますよね。これはウイルスの病気は治療する薬がないから、自分の体力でウイルスの抵抗力をつけるしかないからです。

同じことはペットにも言えますが、ペットは人よりも体が小さく、特に幼い子は急激に衰弱してしまうため二次感染を防ぐ抗生物質や消炎剤などを使い、なるべく早く症状を取り除く治療をしてあげることが大切です。症状によっては点滴を打って水分や栄養を補給したり、インターフェロンを用いた治療を行うこともあります。


予防法

ワクチン接種

上記でご紹介した、犬の「ケンネルコフ」や猫の「ウイルス性鼻気管炎」は、あらかじめ混合ワクチンを接種することで予防できる病気です。どちらも混合ワクチンの中には通常含まれていますので、感染前の予防方法として動物病院に相談をしてみましょう。


清潔な環境

病原体はお互いに舐めあったり、同じ食器で食餌をしたり、他の子の排泄物を触ってしまったりすることでペットからペットへ感染していきますが、風邪の症状を起こす病原体は特に飛沫感染といって、くしゃみなどで空中にばらまかれた病原体を吸い込むことによって広がっていきます。

寒いとどうしても暖房をつけたまま換気を怠ってしまいがちです。換気を行わずに暖房を使用していると、室内にいるウイルスが循環するばかりですので、空気の入れ替えをこまめに行いましょう。

また、ペットが利用する生活スペースもこまめに掃除して、普段から清潔な環境作りを心がけましょう。


気管への負担を和らげる

もし呼吸器がもともと弱っていたら、病原体は感染しやすくなります。たとえば、引っ張り癖がある子はお散歩の度に首輪が気管を圧迫して負担をかけているため、炎症が起きやすくなっています。引っ張り癖を直すのも重要ですが、散歩のときは胴輪を使用するなどして気管に負担をかけないようにしましょう。

また、無駄吠えも気管に負担がかかる動作のひとつですので、ひどくなる前にしつけをしておきましょう。


適切な温度

最近では、暖房機器が充実しているので、室内で過ごしているペットは温かく過ごしていることが多いと思います。しかし、散歩で暖かい部屋からいきなり寒い外に移動すると、急激な温度変化に体が対応できず、ストレスで免疫力が低下してしまいます。

ですので、普段から部屋を暖かくしすぎないように注意し、散歩の時間もなるべく気温の高い時間を選ぶようにしましょう。また、すべての犬が寒さに強いわけではありません。チワワやスムースダックスフンド、ワイマラナーなど短毛のシングルコートの子は寒さに弱いと言われています。外出する場合は洋服など、寒さ対策をしっかりしてから出かけましょう。


適度な湿度

冬はどうしても空気が乾燥してしまい、ウイルスに感染しやすくなります。特にエアコンの効いた部屋では空気が乾燥しがちです。室内で過ごす場合は、加湿器などを利用して適度な湿度が保てる環境を作りましょう。

人は自分で体調を管理することができますが、ペットは自分でエアコンを調整することができません。飼い主さんが大切なペットの変わりに体調管理をしてあげましょう。


おわりに

「風邪」と聞くと、つい軽視しがちですが人とペットとでは、少し病気に対する認識が異なるので注意が必要です。ペットの場合、早く治療を開始しないと、みるみる衰弱して悪化してしまうことがあるからです。

感染するウイルスの種類は異なりますが、部屋の空気の入れ替え、湿度や温度を管理するなどの生活環境を見直すことで、ペットとともに飼い主さんも感染を防ぐことができます。日頃から健康管理もしっかり行うことでウイルスへの抵抗力をつけておき、風邪をひかないように気を付けるようにしましょう。

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