目の病気「チェリーアイ」について

犬の目頭から真っ赤に腫れあがった組織が飛び出る病気があります。これは正式名称を瞬膜腺突出(脱出)といい、赤く丸く腫れあがった病変部が真っ赤に熟れたさくらんぼのように見えることから、一般にはチェリーアイと呼ばれています。チェリーアイは飼い主さんにはあまりよく知られていませんが、犬では比較的多くみられる病気です。(猫にもまれに見られますが、症例は多くありません)

今回はこの瞬膜腺突出(チェリーアイ)について、原因や症状、治療法などについて解説します。


瞬膜腺とは

犬の目をよく見てみると、目頭(鼻に近いほう)のところに小さく三日月型の粘膜が見えます。これが瞬膜で、この裏側に瞬膜腺と呼ばれる涙を分泌する腺があります。瞬膜は別名を第三眼瞼といい、健康なときにははっきりしませんが、目の表面を怪我したときや体調の悪いとき、顔面の神経に異常があるときには、目の半分くらいを白っぽい膜が覆ったようにして見えることがあります。瞬膜には角膜(目の表面の透明な部分)を保護したり、涙を角膜全体に広げたりする働きがあり、瞬膜腺は涙の約半分を作っているといわれています。


原因

チェリーアイとは、瞬膜腺が外側に飛び出てしまった状態です。生れつき瞬膜腺を瞬膜に固定している結合織が欠けていたり弱かったりすると、瞬膜腺が反転するようにして外に突出してしまうことがあります。ビーグル、アメリカン・コッカー・スパニエル、ボストン・テリア、セント・バーナード、ペキニーズ、バセットハウンド、チワワ、ブルドッグなどが遺伝的になりやすい犬種といわれ、多くは1歳以下で発症します。

また、成犬になった後でも瞬膜に非常に強い炎症が起きたり、瞬膜腺が腫瘍化することによって発症することもあります。


症状

目のふちにゴロゴロしたものがあって、それが痛みや不快感を伴って眼球を常に刺激しているため、犬は気になってしょっちゅう目を地面にこすったり手で掻こうとします。そのため結膜炎や角膜炎の症状が見られることが多く、白目が真っ赤になったり、目の表面が傷ついて白っぽく濁ってしまうこともあります。また、涙の分泌量が減ることによってドライアイになり、乾燥性の角膜炎を引き起こすこともあります。

飛び出した瞬膜腺の大きさはさまざまで、米粒大の大きさのものから大豆ほどの大きさに腫れ上がる場合もあります。


治療法

瞬膜腺が飛び出してすぐであれば、下まぶた越しにそっと押してみると元に戻ることがありますが、炎症を起こして大きく腫れてしまっている場合には戻すことは難しいでしょう。消炎剤や抗生物質の点眼薬を使い、症状を軽減させながら押し戻すことができる場合もありますが、一度発症してしまったら多くの場合は再び何かの拍子で出てきてしまうと思っていたほうがよいでしょう。長時間瞬膜腺が露出していると、その表面が傷ついたり乾燥して元に戻らなくなってしまったり、涙を分泌する能力が低下してしまうため、もし再発をくりかえしたり完全に治そうと思ったら、全身麻酔をした上での外科手術による整復が必要になります。

外科手術法は2種類あり、瞬膜腺を切り取ってしまう方法と、瞬膜腺を瞬膜の裏側に縫いこむ方法があります。瞬膜腺の炎症が非常に激しかったり、裏側に縫いこんでも再発してしまう場合には瞬膜腺を切り取る方法がとられますが、術後に涙の分量が減ることによりドライアイを起こしやすくなるため、あまり選択されることはなくなりました。


もし、目の異常を見つけたら

犬は目に異物感を感じた場合は、すぐに前足や地面で擦ろうとします。それで角膜を傷つけてしまう例が非常に多くみられます。傷ついた角膜はすぐに適切な処置を行えば元通りに治すことができますが、もしそのままにしておくと本来透明であるはずの角膜表面が白く濁ったり、角膜に血管が伸びてきてしまって一生視界に影響を与えることがあります。そのため、異常を見つけたり愛犬が目を気にしているようなしぐさをしている場合には、なるべく早く動物病院に連れて行くことが大切です。

そして、病院に連れて行くまでの間に症状を悪化させないように、エリザベスカラーを装着するとよいでしょう。爪による角膜損傷を抑えることができます。

チェリーアイは、よく人の「ものもらい」や「トラコーマ」と同じものと勘違いされる方もいるようで、人の目薬をさして様子を見る方もいますが、これらの病気とは原因がまったく異なります。また、遺伝的な要因で発症することが多いため、予防することは難しい病気です。おかしいなと思うことがあれば、悪化しないうちに早めに動物病院へ連れて行きましょう。

ペットクリニック.com

獣医師発信のペット情報サイト