人と同じようにペットも輸血が必要になることがありますが、人と犬の血液型の違いを知っていますか?また、犬の輸血が難しいといわれているのはなぜでしょうか?今回は犬の血液型から輸血の現況までのお話をします。
輸血が必要となる場面
血液をつぶつぶのオレンジジュースに例えてみると、“つぶつぶ”に相当するのは「赤血球」で、“オレンジジュース”に相当するのは「血清」です。45%果汁が通常だとすると、立ちくらみを起こす原因である「貧血」はそれよりも少ない果汁であると大雑把に理解できます。
何らかの原因で自分の血液が溶けてしまう病気や、下痢や嘔吐で血液中のたんぱく質が失われてしまう病気、また、交通事故や手術などによる大量出血の際にも輸血が必要となることがあります。
血液成分の働き
血液中の成分は、大きく赤血球・白血球・血小板の3つに分けられます。血液は心臓から太いパイプを通じて体のいたる所にたくさんの情報を流す役割を持っています。これらの血液成分の働きは、人も犬も同じです。
1. 赤血球
血管を道路に例えてお話します。高速道路である動脈から一般道である毛細血管へと移動して、酸素という荷物を届けて不要なゴミを受け取り、再び一般道から高速道路に乗って心臓に戻ります。人を含め犬や猫(背骨がある動物)の赤血球には酸素を運ぶ“ヘモグロビン”という血色素が存在し、そこに含まれる「鉄」が酸素と結びつく酸化すると、鮮やかな赤色になります。
2. 白血球
体内に侵入した異物を攻撃する働きをします。白血球はいくつかの働きをもつ細胞で構成されており、体内に入った病原菌や異物を消化・分解します。
3. 血小板
血小板は出血したときに素早く傷口をふさぐ『のり』のような役割をします。
人間の血液型
人間の血液型は、ABO式で分類されるのがもっともポピュラーです。一般的なABO式は、人類最初の血液型としてランチェスター博士によって1901年に発見され、「ランチェスターの法則」でA型、B型、O型、AB型の4つに分類されます。
A型:赤血球上にA抗原があり、血清中に抗B抗体がある場合
B型:赤血球上にB抗原があり、血清中に抗A抗体がある場合
O型:赤血球上にAおよびB抗原がなく、血清中に抗Aおよび抗B抗体がある場合
AB型:赤血球上にAおよびB抗原があり、血清中には抗体がない場合
体の中に侵入してアレルギーなどの免疫反応を引き起こす異物を抗原といいます。病原菌やウイルスだけではなく、食べ物(タンパク質)も抗原となります。 抗原が体内に侵入すると、白血球の中の「リンパ球」がその抗原に対する武器を作り出します。これが抗体です。そして、抗原・抗体を調べて上記のように判定するのがABO式です。
また、人間の血液型はABO式のみで分類されるわけではなく、それ以外にもRh型、MN型、P型など血液を示す型は数多くあります。
犬の血液型
犬の血液型は1950年代中期にはじめて見つかりましたが、人間と比べるともっと複雑で、なんと13種類以上あるといわれています。
そのほとんどは、赤血球の表面に存在する複数の抗原タイプによって分類されますが、その中でも代表的なDEA(Dog Erythrocyte Antigen:犬赤血球抗原)での分類が国際標準となっています。
このDEA方式での血液型は、現在9種類(DEA 1.1、1.2、1.3、3、4、5、6、7、8)に分かれています。
輸血の現場から
臨床の現場では、輸血を選択しなければ最悪な結末となることもあります。輸血のときに問題となるのは、急性溶血反応です。急性溶血反応とは、ドナー(血液を与える犬)の血液中の抗体がレシピエント(血液をもらう犬)の赤血球を攻撃するために、レシピエントの血液が破壊されることです。
前述のように血液には抗原と抗体が存在します。体外から侵入した異物である抗原をマークし「これは異物だよ」と知らせるのが抗体です。
このように輸血をする場合には、その抗原と抗体が問題となり、これが合わないと上記の急性溶血反応のような事態をもたらします。そのため、確実に適合する血液を探すことが何より先決になります。
犬だからといってどの犬の血液でも輸血できるわけではありませんが、犬種が違っても適合する血液であれば輸血は可能です。
犬の輸血の場合は「DEA1.1」が陽性(+)であれば陽性の血液を輸血しなければなりませんし、陰性(-)場合は陰性の血液を輸血しないと問題が起こります。人間も同じA型でもRHが+と-では輸血できないのと同じです。犬の血液型を正確に把握しなければさまざまな問題が起こるため、輸血前には血液が適合するかのチェックを行う必要があります。
日本でも国際的に認知されている犬血液型判定キット(犬赤血球抗原:DEA1.1の有無を判定)が入手可能となり、ドナーとレシピエントの血液を混ぜて肉眼的に適合を評価するクロスマッチ試験結果と合わせ、より詳しい適合判定ができるようになっています。
ペット専用血液バンク
現在、一部の獣医師会や有志グループにより輸血医療ネットワークが作られ、会員の飼い主が利用できるシステムが構築されつつあります。ペット医療の最先端であるアメリカでは、ペット用の血液バンクも設立されていますが、残念ながら日本では公的な「犬猫専門血液バンク」は存在しません。そのため、病院によって血液の入手方法はさまざまです。
おわりに
今回は犬の輸血について説明してきましたが、飼い主としてこれらの知識を身に付けることは必要なことです。しかし、一番大切なのは、愛犬に輸血が必要となるような状況を作らないことです。日ごろの健康管理や行動の管理をすることで、病気や事故などのリスクを軽減し、輸血が必要となる場面をなるべくつくらないよう心がけましょう。
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